百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第43番に選ばれた権中納言敦忠の和歌、「逢ひ見ての」。
この歌は、恋が成就した後の心の変化を詠んだ一首です。
今回ご紹介するのは、第43番『逢ひ見ての』。この歌では恋をしていた頃は、相手に会えない苦しみばかりを感じていたものの、実際に想いが叶った後に比べれば、昔の悩みなど大したことではなかったと気づく――そんな、恋の深まりによる心情の変化が繊細に描かれています。

百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説では、初心者の方にもわかりやすく、和歌の背景や楽しみ方を丁寧に解説していきます。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
また、百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第42番 清原元輔『契りきな』記事も併せてご覧ください。
権中納言敦忠の生涯と百人一首の背景
生涯について


藤原敦忠|権中納言敦忠 – Wikipedia(906年~943年)は、
平安時代中期の公卿であり、
三十六歌仙の一人としても知られています。
父は左大臣・藤原時平で、
兄には藤原保忠、藤原顕忠がいます。

また、38歳で亡くなるまでに、勅撰和歌集に30首が収録され、その和歌の才能は高く評価されています。
歴史的イベント
権中納言敦忠の父・藤原時平は、
菅原道真を大宰府に左遷させた張本人として知られています。
しかし、その後時平は39歳の若さで急死し、
一族にも早世する者が続いたため、
これらは「道真の祟り」ではないかと噂されました。

また、敦忠自身も38歳で亡くなり、彼の早すぎる死も道真の祟りと関連づけられることがありました。

敦忠は公卿としての地位だけでなく、三十六歌仙の一人として和歌の才能にも優れ、多くの名歌を残しました。
菅原道真といえば、藤原時平によって大宰府へ左遷された悲劇の政治家であり、優れた歌人でもありました。その道真を左遷した時平の子が、今回の歌人である藤原敦忠です。
時平の一族には短命の者が多く、敦忠もまた38歳で早世しました。そのため、道真の祟りが影響したとも囁かれています。そんな宿命の因縁を持つ二人の和歌を並べて読むと、時代背景がより深く感じられるかもしれません。
他の歌について
権中納言敦忠は『後撰和歌集』に、
「いかにして かく思ふてふ 事をだに 人づてならで 君にかたらむ」
という和歌を残しています。
またこの歌は、自分の想いをどのように伝えたらよいのか、
直接言えずにもどかしく思う心情を詠んだものです。

百人一首の「逢ひ見ての」の歌と同様に、恋のもどかしさと心の変化を描いた作品となっています。

敦忠は、平安貴族らしい繊細な恋心を詠むのに長けた歌人であり、その表現の巧みさが光る一首です。
百人一首における位置付け
権中納言敦忠の和歌は、
恋が成就した後の心の変化を詠んだ一首です。
また恋しい想いに苦しんでいたはずが、いざ叶ってみると、
それまでの悩みは大したことではなかったと気づく――
そんな恋の奥深さと感情の移ろいを表現しています。
平安時代の恋愛観を象徴する一首であり、
恋の切なさと喜びの対比が見事な作品です。
権中納言敦忠がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説では、権中納言敦忠がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 恋の苦しみが成就後に変化することを表現するため
- 恋愛の移ろいやすい心情を描くため
- 平安時代の恋愛観を映し出すため
恋の苦しみが成就後に変化することを表現するため
恋に悩んでいる間は、
「こんなに苦しいことはない」
と嘆いていたはずです。
しかし、いざ想いが叶うと、
その苦しみは取るに足らないものに思えてしまう。
これは、恋に限らず、人間の心理として普遍的なものです。
この歌では、
恋の成就によって、自分の感情がどのように変わったのか
を振り返り、その深さを表現しています。
恋愛の移ろいやすい心情を描くため
「逢ひ見てののちの心」とは、
想いが叶った後の心情の変化を指します。
また恋に悩んでいた頃は、
相手のことを考えては苦しんでいましたが、
実際に結ばれた後のほうが、
もっと深く相手のことを想うようになるのです。
そして恋の悩みは終わるのではなく、
別の形でさらに深まっていく――
それがこの歌の核心です。
平安時代の恋愛観を映し出すため
平安時代の貴族の恋愛は、
文を交わすことから始まり、
密かに逢うことで進展するものでした。
また逢うまでの不安と期待が大きい分、
一度想いが通じると、
さらに深い感情が芽生えるというのは、
当時の恋愛観の特徴でもあります。
そしてこの歌は、恋の成就がゴールではなく、
新たな想いの始まりであることを教えてくれます。

この和歌は、恋の成就が新たな想いの始まりであることを表現しています。また恋に悩んでいた頃は、それが最大の苦しみだと思っていたのに、いざ想いが叶うと、その悩みは取るに足らないものに思えてしまう。

しかし、想いが通じたからこそ、さらに相手を求める気持ちが強くなるという、新たな恋の形が生まれます。
平安時代の恋愛観を映しながら、恋の深まりと感情の移ろいを巧みに表現した一首です。
読み方と句意


百人一首 権中納言敦忠
歌:逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
読み:あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
句意:恋しくて悩んでいた頃はつらかったが、実際に逢ってみると、昔の悩みなど大したことではなかった。想いが通じた今のほうが、むしろ深く恋い焦がれている。
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』の楽しみ方
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 「逢ひ見ての」の意味を深く味わう
- 「昔はものを思はざりけり」の意外性
- 平安時代の恋愛観を知る
「逢ひ見ての」の意味を深く味わう
この和歌の鍵となるのは、
「逢ひ見ての(逢ってみた後で)」という表現です。
また平安時代の恋愛は、逢うまでの過程が重要で、
実際に想いが通じると、
新たな感情の変化が生まれることを示しています。
この一言によって、恋は叶ったら終わりではなく、むしろそこから新たな悩みや想いが生まれることが、読み手にも伝わるのです。
「昔はものを思はざりけり」の意外性
「昔はものを思はざりけり」は、
「以前はまだ本当の恋を知らなかった」という意味です。
また恋に悩んでいた時は、
それが最もつらいと思っていたのに、
実際に逢ってみると、
今のほうがもっと切実に相手を想うようになった
という気づきが生まれています。
この逆説的な表現が、恋の奥深さを巧みに表しているのです。
平安時代の恋愛観を知る
この歌は、平安時代の恋愛がどのように
進んでいたのかを知る手がかりにもなります。
貴族の恋は、まず手紙のやりとりから始まり、
夜に忍んで会うことが進展の証でした。
そのため、「逢う」ことは一つの大きな節目でした。
しかし、それで終わりではなく、恋はむしろそこから深まり、新たな感情が生まれることを、この歌は見事に表現しています。
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば」では、
長い間思い焦がれ、ようやく逢うことができました。
逢う前は、それが最も大きな悩みだと思っていたのに、
実際に想いが通じた後の気持ちと比べると、
以前の悩みなど取るに足らないものだったと気づきます。
恋が叶うことで、かえって相手への想いがさらに深まる――
そんな、恋の新たな段階へと進んだ情景が描かれています。
五音句の情景と意味 「逢ひ見ての」


「逢ひ見ての」では、「逢ってみた後で」という意味。長い間待ち望んだ恋が成就し、ついに相手と想いを交わすことができた瞬間を表しています。
七音句の情景と意味 「のちの心に」


「のちの心に」では、「逢った後の気持ち」とは、想いが通じたことで生まれた、新たな感情の変化を指します。恋が叶ったからこそ、もっと相手を求める心が強くなったのです。
五音句の情景と意味 「くらぶれば」


「くらぶれば」では、「比べてみると」という意味。昔はつらかったはずの恋の悩みが、今の深い想いと比べると、大したことではなかったと気づく瞬間です。
下の句(7-7)分析
下の句「昔はものを 思はざりけり」では、
かつては、恋しくて苦しんでいたはずなのに、
今になって思えば、その頃の悩みはまだ浅かった
と感じています。
また実際に逢って想いが叶ったことで、
かえって相手をもっと深く想い、
さらに恋の苦しさを知ることになった。
恋の感情が変化し、
悩みが増すことで、恋がより本物になっていく
様子が描かれています。
七音句の情景と意味「昔はものを」


「昔はものを」では、「昔は、もの思いにふけっていたけれど」と過去を振り返る言葉。以前の恋の悩みは、本当の恋の苦しみではなかったと気づきます。
七音句の情景と意味「思はざりけり」


「思はざりけり」では、「思い悩んでいたつもりだったけれど、今に比べれば浅かった」と、恋の成就による新たな心の変化を実感しています。
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』和歌全体の情景


長い間、相手に逢えないことを嘆き、恋の苦しさを感じていた。恋が叶ったことで、むしろさらに相手を想い、心が深く揺れ動く。恋の成就が、終わりではなく新たな始まりであることを実感する情景が描かれています。感情の移ろいを見事に表現した一首です。
百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』まとめ
権中納言敦忠の和歌は、
恋が叶った後にこそ、
より深い想いが生まれることを詠んだ一首です。
恋に悩んでいた頃は、
それが最もつらいと思っていたのに、
実際に逢ってみると、
むしろ今のほうがもっと相手を
求めるようになっていると気づく。

この歌は、逆説的な表現が、恋の奥深さを際立たせています。恋の移ろいやすさや、人の心の変化を巧みに描いた、平安時代の恋愛観を象徴する一首です。

百人一首第43番 権中納言敦忠『逢ひ見ての』背景解説を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。