百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第62番は、才色兼備の清少納言による
機知あふれる返歌です。
また「夜」「鳥」「関」といった
言葉に込められたのは、
恋の駆け引きと女房の誇り。
鋭い観察とことばの妙が光る一首は、
当時の宮廷文化の知的な遊び心を
今に伝えてくれます。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
また、百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』記事も併せてご覧ください。
清少納言の生涯と百人一首の背景
生涯について


清少納言 Wikipedia(966年頃〜1025年頃)は、
清原深養父の曾孫であり、
父・清原元輔とともに歌人の家系に生まれました。
三代続けて百人一首に選ばれている稀有な家系です。
また中宮定子に仕えた才媛で、
宮廷生活の見聞を綴った随筆『枕草子』は、
紫式部の『源氏物語』と並ぶ
平安文学の傑作と称されます。

鋭い知性と感性をもって、和歌・文章いずれにも卓越した足跡を残しました。

彼女の一首は、知的な応酬として詠まれたもので、その機知が光ります。
🔗 三代続く歌人の絆をたどるなら…
清少納言の曾祖父・清原深養父と、父・清原元輔の名歌もぜひお楽しみください。
それぞれの時代に響いた月の美しさと、波を越えた誓いの余韻をご紹介しています。
▶︎ [百人一首第36番 清原深養父『夏の夜は』背景解説 – 月のゆくえ]
▶︎ [百人一首第42番 清原元輔『契りきな』背景解説 – 波越えぬ誓い]
歴史的イベント
清少納言は、一条天皇の中宮・定子に仕え
華やかな宮廷文化の中で『枕草子 Wikipedia』を記しました。
この随筆は四季の美、宮廷の人々、
そして日々の機微を鋭い感性で綴った名作で、
日本随筆文学の嚆矢とされています。
他の歌について
清少納言は『続後撰和歌集』に、
「我ながらわが心をも知らずしてまた逢ひ見じとちかひけるかな」
という歌を残しています。
自分自身の心すら測れぬ恋の迷いを詠んだ歌です。
また清少納言の「夜をこめて」と同じく、
感情の揺らぎや機転の利いた表現が魅力です。

そして逢瀬の断ち切れぬ思いと、理性との葛藤がにじむ一首となっています。
百人一首における位置付け
百人一首第62番は、才知あふれる女性歌人
清少納言の鋭い返歌として知られます。
また恋歌が中心の中で、
機知と風刺の光る異色の一首です。
貴族文化における女房文学の存在感や、
女性の知性が花開いた時代背景を
象徴する和歌として位置づけられています。
清少納言がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』背景解説–才媛の返歌では、清少納言がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 即興の返歌としての才気
- 枕草子に通じる知性の発露
- 女性文学の一時代を象徴
即興の返歌としての才気
ある男性からの求愛歌への返しとして、
機知に富んだ即興の歌を詠んだとされます。
また恋の駆け引きよりも、
言葉のやりとりに重きを置いた場面でした。
枕草子に通じる知性の発露
この和歌には、
清少納言らしい風刺や観察眼がうかがえます。
また『枕草子』と同様、
周囲の状況や相手の言動を
冷静に見つめた上での返答となっています。
女性文学の一時代を象徴
男社会の中で、
女房たちが発揮した知性と文芸的感性を
象徴する作品です。
また女性が堂々と応酬する姿に、
当時の宮廷文化の成熟が見えます。

この和歌では、ある男からの“夜這い風”の恋歌への即興返歌として詠まれたもので、清少納言の聡明さと才気が光る逸話とともに語り継がれています。
「鳥の空音(うそ)」という機知に富んだ比喩と、「逢坂の関」の掛詞が絶妙に絡み合い、恋を拒む一方で言葉遊びとしての優雅さを保った一首となっています。
読み方と句意


百人一首第 清少納言
歌:夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも よに逢坂の 関はゆるさじ
読み:よをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ
句意:夜明け前に来たという言い訳は信じません。逢いたくても、あなたを通す心の関は開きません──。そんな恋を拒む強い決意を、機知を込めて表しています。
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』の楽しみ方
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』背景解説–才媛の返歌では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 返歌の妙を味わう
- 枕草子との共鳴を探す
- 関所の比喩を読み解く
返歌の妙を味わう
朝まだきに来たという
言い訳を「鳥の空音」と看破し、
関所になぞらえ断る機転の効いた応答に、
彼女の知性と気品が光ります。
藤原実方の求愛に対し、清少納言が鋭くもユーモラスに返した歌。相手の歌に応じた見事な切り返しが、この歌の魅力です。
枕草子との共鳴を探す
恋や日常に対する清少納言の
スタンスを重ねることで、
歌と随筆の両面から彼女の人物像が
浮かび上がります。
『枕草子』に見られる観察力と機知に富んだ文体と、この歌の返しには通じるものがあります。この和歌の機知と反骨精神は随筆でも健在です。
関所の比喩を読み解く
「逢坂の関」は、恋人を通すか
どうかの心の境界を表す比喩。
この表現により、ただの拒絶ではなく、
儀礼や風雅を重んじる平安貴族らしい
婉曲表現として機能しています。
恋愛×関所=拒絶の暗喩として注目。場面の背景を想像すると深く楽しめます。
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも」では、
まだ夜が明けぬうちに、
鶏が鳴いたと嘘をついて会いに来るあなた──
その言い訳を、私はけっして信じない。
また夜の静けさのなかに響く
「空音(そらね)」には、
恋の駆け引きと皮肉が込められています。
五音句の情景と意味「夜をこめて」


「夜をこめて」では、だ夜が明けきらぬ闇の中、密かに動き出す人の気配。そして恋の駆け引きが始まる予感に包まれています。
七音句の情景と意味「鳥の空音は」


「鳥の空音は」では、本当の朝を告げる鶏の声ではなく、偽りの鳴き声。そして恋人の言い訳を象徴する“空(そら)”の響き。
五音句の情景と意味「謀るとも」


「謀るとも」では、たとえ計略をめぐらし、私を騙そうとしても──女の知性と決意が、静かに浮かび上がる一句です。
下の句(7-7)分析
下の句「よに逢坂の 関はゆるさじ」では、
「たとえどんな言い訳をしようとも、
あなたには絶対に心を許さない」──
そう語る“逢坂の関”。
また恋の行き止まりを象徴するこの地名に、
女性の誇りと拒絶の強さが込められています。
そして風情と知性が織りなす、
きっぱりとした余韻が残ります。
七音句の情景と意味「よに逢坂の」


「よに逢坂の」では、“逢坂の関”は恋の関所──出会いと別れ、許しと拒みの象徴です。つまり「どんなことがあっても」という強い意志が、この地名に重ねられています。
七音句の情景と意味「関はゆるさじ」


「関はゆるさじ」では、「心の関所は決して開かない」──そんな冷静かつ毅然とした拒絶の宣言。女性のプライドと知性がにじむ一言であり、たとえ嘘で迫られても、心は揺るがないという気高さを感じさせます。
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』和歌全体の情景


和歌全体では、夜明け前、まだ暗い中で鳴く鶏の声──それが嘘であろうと、逢いたいという気持ちで騙そうとしても、心の関所は開かない。恋の駆け引きの中での知性と誇り、そして女性としての強さが、冴え冴えと描かれた和歌です。
百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』まとめ
清少納言の「夜をこめて」は、
ただの恋の歌ではなく、
知性と気高さがにじむ女性のプライドの歌です。
たとえ夜明けを装っても、
想いのままに心を許すわけではないという強い意志が、
関所の比喩で鮮やかに描かれています。
彼女の返歌は、恋における一種の“勝ち”でもあり、
和歌という言葉の戦での美しい応酬です。

千年を経てもなお、鋭さと品格を兼ね備えた一首として、多くの人に深い印象を与えています。

百人一首第62番 清少納言『夜をこめて』背景解説–才媛の返歌を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。