百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
冷たくなった恋人を思い、
その恨みを初瀬の山嵐に託した源俊頼の一首。
恋の苦しみと自然の激しさが交錯し、
心情が風景と一体となって響きます。

ここには、人の感情を自然に映す和歌の魅力と、平安の恋の切なさが込められています。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。また和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第73番 大江匡房『高砂の』記事も併せてご覧ください。
源俊頼の生涯と百人一首の背景
生涯について


平安時代後期の歌人で、
大納言・源経信の子として生まれました。
父譲りの歌才を受け継ぎ、
宮廷で活躍しながら勅撰集『金葉和歌集』の
撰者にも任じられます。

斬新な発想と技巧的な表現を重んじ、後世の和歌に新風を吹き込んだ歌人と評価されました。

百人一首に選ばれた「憂かりける」の一首は、冷たくなった恋人への恨みを山颪に託し、感情の激しさと自然描写の融合を示す作品です。
🌾 あわせてご覧ください
父・源経信も百人一首に名を残しています。
夕暮れに吹く秋風を素朴な農家の風景に重ねた一首、
「まろ屋の秋風」の記事もぜひお楽しみください。
歴史的イベント
源俊頼は、
大納言・源経信の子として生まれ、
和歌の才を早くから発揮しました。
承暦4年(1080年)には「内裏歌合」に参加し、
以後も宮中歌壇で頭角を現します。
また百人一首に採られた歌は、
恋の恨みを自然に託す心情表現の巧みさを
示す代表作です。
そして白河院に重用され、
『金葉和歌集』の撰者に任じられたほか、
『俊頼髄脳』を著して歌論を展開。

その斬新な作風は「新様」と呼ばれ、後の藤原俊成・定家にも大きな影響を与えました。

百人一首に採られた歌は、恋の恨みを自然に託す心情表現の巧みさを示す代表作です。
他の歌について
源俊頼は『散木奇歌集』に、
「夕されば萩をみなへしなびかしてやさしの野べの風のけしきや」
という歌を残しています。
この歌では、夕暮れに萩や女郎花が
風になびく情景を描き、
野辺に漂うやさしさともの寂しさを表現しています。
また自然の風景を細やかに観察し、
その中に人の感情を重ね合わせる俊頼の
感性がよく表れています。

百人一首の「憂かりける」が恋の恨みを激しい山颪に託したのに対し、この歌はやわらかな風に心を寄せた叙景的な一面を示しています。

そして俊頼は、恋の激情だけでなく、自然と調和する繊細なまなざしを持つ歌人でもありました。
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』の百人一首における位置付け
恋の恨みを山颪に託した一首で、
自然描写と激しい感情表現が
結びついた代表的な恋歌です。
百人一首では、学識ある俊頼の新風歌風を
示す作例として位置づけられ、
感情の激しさを自然に託す和歌の典型
と評価されています。
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源俊頼がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』背景解説–憂き人を責むでは、源俊頼がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 恋人の冷淡さを嘆くため
- 自然に感情を託すため
- 自らの切実さを強調するため
恋人の冷淡さを嘆くため
「憂かりける人」とは、冷たくなった相手。
その心変わりへの恨みを、
初瀬の山颪の激しさに重ねて詠んでいます。
自然に感情を託すため
山から吹き下ろす激しい風を、
恋の苦しみに見立て、
人の感情を自然の現象として描き出す技法を
用いています。
自らの切実さを強調するため
「激しかれとは祈らぬものを」と結ぶことで、
望んでいないのに訪れる苦しみを
強く印象づけています。

この和歌では、恋人の冷淡さに対する恨みと苦しみを、初瀬山の激しい風に重ね合わせて表現しています。

また俊頼は直接的に相手を責めず、自然の力を借りて感情を託すことで、和歌の品格と深みを保ちました。
ここには、恋に傷ついた心情の切実さと、自然と感情を結びつける平安和歌の特徴がよく表れています。
読み方と句意


百人一首第 源俊頼|源俊頼朝臣
歌:憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ 激しかれとは 祈らぬものを
読み:うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
句意:この和歌では、冷たくなった恋人を恨み、初瀬山の山颪よ、こんなに激しく吹けと祈った覚えはないのにと嘆く心情を詠まれています。
「憂き人を責む」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
冷たくなった人への恨み。理不尽に降りかかる出来事への嘆き。そして望んでいないのに押し寄せる困難――。俊頼の歌に込められた思いは、今を生きる私たちの感覚にも響きます。
- 人の冷たさに傷つくとき
- 理不尽さに耐える心
- 感情を自然に託す視点
人の冷たさに傷つくとき
「憂かりける人」とは、
かつて親しく心を寄せた相手。
またその人が冷たくなったときの
寂しさや憤りは、
今も共感される感情です。
俊頼は山颪にその思いを託しました。
直接責めるのではなく自然に投影することで、
感情を静かに昇華させています。
大切に思った人からの冷たい態度は、心に深い痛みを残します。それでも、その痛みをどう受け止めるかで次の一歩が変わります。
理不尽さに耐える心
「激しかれとは祈らぬものを」という結句には、
自分の意志ではどうにもならない
理不尽さへの嘆きが表れています。
また現代でも、思いがけない出来事に
心を乱されることはあります。
そんなとき、この和歌は私たちの気持ちを
代弁してくれるようです。
望んだわけではないのに降りかかる苦しみ。それは恋だけでなく、仕事や人間関係でも感じることです。
感情を自然に託す視点
俊頼は、相手を名指しで責めずに、
山颪に感情を込めました。
またこのように自然を
媒介として心情を表す方法は、
感情をそのままぶつけず、
余韻として伝える力があります。
そして現代に生きる私たちにとっても、
言葉に頼る術の一つとして学べます。
直接言えない思いを、自然現象に託すことで心を整理する。これは今でも詩や言葉が持つ力のひとつです。
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』の楽しみ方
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』背景解説–憂き人を責むでは、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 激しい感情を味わう
- 自然との結びつきを読む
- 技巧の巧みさを探る
激しい感情を味わう
「激しかれとは祈らぬものを」という結句には、
望んでいないのに押し寄せる苦しみへの
嘆きが込められています。
また感情をストレートに表すこの和歌は、
平安歌人の繊細さだけでなく、
人間らしい激情を楽しめる一首です。
冷たくなった恋人への恨みを、初瀬の山颪に重ねた激しさ。感情の強さをそのまま感じ取る楽しみがあります。
自然との結びつきを読む
俊頼は相手を直接責めず、
山颪に感情を託しました。
また風の激しさと心の乱れが重なり、
自然現象が感情の象徴となります。
このように、風景を媒介として感情を
表現する和歌の技法を楽しめます。
山から吹き下ろす風を、恋の比喩として描く。自然と感情の融合を味わうことができます。
技巧の巧みさを探る
「あだ波」や「袖を濡らす」などと同様に、
この歌でも比喩的表現が
効果的に用いられています。
また俊頼は恨みを直接語らず、
自然の現象で包み込むことで、
言葉の巧みさと感情の余韻を残しました。
そしてそこに和歌ならではの
魅力があります。
掛詞や比喩を駆使し、感情を上品に表す和歌の美学を味わえます。
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ」では、
冷たくなった恋人を思い、
その心変わりを初瀬の山から
吹き下ろす風に重ねています。
また自然の厳しさを借りて、
恋の恨みを映し出した導入部です。
五音句の情景と意味「憂かりける」


「憂かりける」では、心を寄せた相手が急に冷たくなり、恋の苦しさに胸を締めつけられる瞬間を表しています。
七音句の情景と意味「人を初瀬の」


「人を初瀬の」では、冷淡な恋人を思う心を、初瀬山の厳しい自然と重ね合わせる場面です。
五音句の情景と意味「山おろしよ」


「山おろしよ」では、山から吹き下ろす強い風に、恨みや嘆きの感情を託した呼びかけが響きます。
下の句(7-7)分析
下の句「激しかれとは 祈らぬものを」では、
恋人の冷たさを山颪の風に重ねつつ、
自らそんな激しさを望んだわけではないと
嘆いています。
また望まぬ苦しみを背負う切実さと、
感情のやり場のなさが滲む結句です。
七音句の情景と意味「激しかれとは」


「激しかれとは」では、山颪の強さに、恋人の冷淡さを重ね合わせた激しい感情の投影が表れています。
七音句の情景と意味「祈らぬものを」


「祈らぬものを」では、そんな激しさを願ったことはない――理不尽に降りかかる苦しみへの切実な嘆きを示しています。
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』和歌全体の情景


冷たくなった恋人の心を思い、初瀬の山から吹き下ろす激しい風にその苦しみを重ねています。けれども自らそんな激しさを祈ったわけではない――。そして望まぬのに押し寄せる理不尽さと、恋の恨みを自然に託す切実な心情が描かれた一首です。
百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』まとめ
この和歌では、冷たくなった恋人への恨みを、
初瀬山の激しい山颪に託して詠まれています。
また「激しかれとは祈らぬものを」という結句には、
自分が望んでいないのに訪れる
理不尽な苦しみへの嘆きが込められています。
そして源俊頼は、直接相手を責めず、
自然を媒介として感情を表現することで、
和歌に深みと余韻を与えました。

人の心の痛みと自然描写を融合させた代表的な恋歌として、百人一首に残されています。

百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』背景解説–憂き人を責むを百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。