百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
「契りおきし」とは、かつて交わした約束のこと。
それを命の支えにしてきたのに、
気づけば今年の秋も過ぎ去ってしまった――。

藤原基俊が詠んだのは、約束の儚さと人生の無常を重ね合わせた一首です。

人の望みと時の流れが交錯する、この切ない和歌をひも解いてみましょう。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。また和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第74番 源俊頼『憂かりける』記事も併せてご覧ください。
藤原基俊の生涯と百人一首の背景
生涯について


平安時代後期の歌人・公卿で、
藤原北家の流れをくむ人物です。
歌才に恵まれ、『金葉和歌集』『詞花和歌集』など
多くの勅撰和歌集に入集しました。

特に技巧的で鋭い表現を駆使する新風の歌風は高く評価され、歌合にも積極的に参加しています。また晩年は出家し、「摂津前司」と呼ばれました。

百人一首に採られた「契りおきし」の一首では、約束の儚さを露に託し、秋の終わりの切なさを詠んだ歌として知られています。
歴史的イベント
藤原基俊は、
院政期を代表する歌人の一人で、
多くの歌合に参加しました。
特に嘉承2年の「内裏歌合」では活躍し、
その技巧的で新風の歌風が注目されました。
『金葉和歌集』や『詞花和歌集』など
勅撰和歌集に多く入集し、
歌壇での存在感を確立します。

一方で昇進には恵まれず、後年は出家して「摂津前司」と称されました。

華やかな歌壇で活躍しながらも、世俗的な地位には執着せず、和歌によって名を残した歌人でした。
他の歌について
藤原基俊は『新古今和歌集』に、
「秋風のややはださむく吹くなへに荻のうは葉の音ぞかなしき」
という歌を残しています。
この歌は、秋風が少し肌寒く吹くなか、
荻の葉が揺れて立てる音を「かなし」と
感じた情景を詠んでいます。
またここでの「かなし」は哀愁だけでなく、
もののあわれを感じ取る感性を
表しています。

藤原基俊は、このように自然の細やかな変化を鋭くとらえ、そこに人の心情を映し出す表現を得意としました。

百人一首に採られた「契りおきし」が人生や約束の儚さを詠んだ歌であるのに対し、この一首は秋の風景と感覚的な寂しさを前面に押し出しており、彼の幅広い歌風を示しています。
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』の百人一首における位置付け
この和歌では、
約束の言葉を「させもが露」にたとえ、
守られぬまま秋が過ぎ去る無常を
嘆いた一首です。
百人一首においては、
約束と人生の儚さを重ねた恋歌として位置づけられ、
時の移ろいを鋭く捉えた作例とされています。
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藤原基俊がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』背景解説–契りの嘆きでは、藤原基俊がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 守られぬ約束を嘆くため
- 人生の無常を映すため
- 自然に感情を託すため
守られぬ約束を嘆くため
かつて交わした契りが果たされず、
命を支えるはずの言葉が
空しく消えていく切なさを詠んでいます。
人生の無常を映すため
露のように儚い命や望みを、
季節の移ろいと重ね、
秋の終わりに感じる無常感を表現しました。
自然に感情を託すため
「させもが露」という
自然の比喩に心を寄せ、
直接的な恨みではなく余情ある表現で
感情を伝えています。

この和歌では、愛や約束にすがりながらも、それが守られない現実に直面したときの嘆きを表しています。

また藤原基俊は、露や秋という自然を媒介にして、人の命や望みがいかに儚いものであるかを表現しました。
恋の切なさと人生の無常感が重なり合い、時の流れに翻弄される人の心情を象徴する一首となっています。
読み方と句意


百人一首第 藤原基俊
歌:契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり
読み:ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
句意:この和歌では、約束を頼みに生きてきたが守られず、今年の秋も虚しく過ぎ、命の儚さを痛感する嘆きが詠まれています。
「契りの嘆き」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
約束が守られない悲しみ。望みが叶わず季節が過ぎる切なさ。そして、時の流れに置き去りにされる孤独――。基俊の歌に込められた想いは、今を生きる私たちにも深く響きます。
- 約束が守られない悲しみ
- 時の流れの切なさ
- 孤独に向き合う心
約束が守られない悲しみ
「契りおきし」とは、
信じていたはずの約束。
またそれが守られず、
期待していた心の支えが失われたとき、
人は大きな喪失感を覚えます。
この和歌では、約束の重さと、
その裏切りがもたらす深い悲しみを
象徴しています。
大切にしていた言葉や約束が果たされないとき、心に虚しさが広がります。
時の流れの切なさ
秋がまた終わってしまった、
という表現にはただの季節の移ろいではなく、
望みが果たされないまま過ぎゆく
時間へのやりきれなさがにじみます。
そしてこの和歌を読むことで、
私たちは「時が進む切なさ」と
向き合うことができます。
叶わぬまま季節が過ぎることは、望みの儚さをいっそう強く感じさせます。
孤独に向き合う心
露に喩えられた命は、
誰かに支えられるはずが、
結局はひとり儚く過ぎていく存在です。
それでも人は、
言葉や記憶にすがろうとします。
そして基俊の一首は、
孤独を抱えながらも生きる人の姿を、
静かに描き出しているのです。
誰にも救われず、ただ自分の命と向き合う孤独感が浮かびます。
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』の楽しみ方
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』背景解説–契りの嘆きでは、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 露の比喩を味わう
- 時間の流れを感じる
- 感情の深みを共感する
露の比喩を味わう
露は朝日で消える一瞬の存在。
そこに人の命や約束を託すことで、
儚さや無常観が深く響きます。
基俊の歌は、自然を借りて心を
表現する和歌の美学を示しており、
露のイメージを思い浮かべながら読むと
一層の味わいが広がります。
「させもが露」に命や約束の儚さを重ねた比喩表現は、和歌の大きな魅力です。
時間の流れを感じる
秋が過ぎてしまったという表現には、
ただの季節の移ろいではなく、
望みが叶わぬまま年月が過ぎる切実さが
込められています。
また和歌を読むことで、
季節と人生の歩みが重なり合う感覚を
体験できるのが魅力です。
「今年の秋もいぬめり」という結句から、時の経過をしみじみと味わえます。
感情の深みを共感する
和歌は、作者の感情に自分の心を
重ねることで一層深く響きます。
また基俊の一首は、
信じたものに裏切られる人の切なさや孤独を
表しています。
そしてその感情に共感することで、
時代を超えた人間の普遍性を味わえます。
約束を頼みに生きながら果たされなかった切なさに、心を寄せる楽しみがあります。
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「契りおきし させもが露を 命にて」では、
かつて交わした約束を“させもが露”にたとえ、
それを命の支えにしてきた心情を表しています。
露のように儚い約束を信じ、
生きる希望としていた切実さがにじむ上句です。
五音句の情景と意味「契りおきし」


「契りおきし」では、かつて交わした約束が心の支えとなり、思いを託した過去の言葉が響いています。
七音句の情景と意味「させもが露を」


「させもが露を」では、“させも草”に置く露のはかない命を借り、約束の儚さを重ね合わせた比喩です。
五音句の情景と意味「命にて」


「命にて」では、その約束を唯一の拠り所として、生きる希望にすがる切実な姿が浮かびます。
下の句(7-7)分析
下の句「あはれ今年の 秋もいぬめり」では、
頼みにしていた約束も果たされぬまま、
また一つ秋が過ぎ去ってしまったと嘆く場面です。
時の流れに置き去りにされる切なさと、
命の儚さを感じる余韻が漂っています。
七音句の情景と意味「あはれ今年の」


「あはれ今年の」では、また一年が過ぎゆくことへの切なさ。望みが叶わぬまま時が流れる無常感がにじみます。
七音句の情景と意味「秋もいぬめり」


「秋もいぬめり」では、秋が終わり、季節は移ろう。約束も果たされず、人生の儚さが深まる瞬間を描きます。
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』和歌全体の情景


かつて交わした約束を命の支えとしてきたが、その言葉は露のように儚く、結局果たされぬまま今年の秋も過ぎ去ってしまった。そして約束の虚しさと、時の流れに取り残される孤独感が、秋の終わりの情景に重ねられている。
百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』まとめ
この和歌では、
命の支えとして信じてきた約束が守られず、
また一年の秋が虚しく過ぎていく
切なさを詠んでいます。
「させもが露」という
儚い自然の比喩を用いることで、
約束の虚しさと人の命のはかなさが
鮮やかに表現されています。

藤原基俊は、約束にすがる心とそれが果たされぬ現実を対比させ、人生の無常を深く感じさせる歌を残しました。

百人一首第75番 藤原基俊『契りおきし』背景解説–契りの嘆きを百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。