百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
夜明けの静寂に、ほととぎすの声が消え、
空にはただ有明の月だけが残ります。

徳大寺実定の一首は、過ぎゆく音と残る光の対比を通して、移ろう時の儚さと静けさを美しく描きました。

自然と心がひとつになる、平安の“静の詩情”を味わってみましょう。
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前回は、長く続いた恋の糸がほつれる想いを詠んだ、待賢門院堀河の一首をたどりました。途切れた想いの余韻が、夜の静けさにそっと漂います。
徳大寺実定の生涯と百人一首の背景
生涯について


藤原北家徳大寺家の出身で、
父に右大臣徳大寺公能。
若年で朝廷に仕え、
やがて左大臣にまで昇進しました。

歌人としても優れ、『千載和歌集』などに作品を残しています。

百人一首81番の「ほととぎす…」は、鳴き声の消滅と有明の月による対比で知られ、実定の和歌世界を象徴しています。
歴史的イベント
実定は、保元・平治の乱を経た院政期から
源平合戦期に至る混乱の中で公卿として活躍。
1164年に権大納言、1186年に右大臣、
1189年に左大臣に就任し、
大きな政治変動を背景に立ち位置を
構築しました。

和歌や漢詩、管弦に秀でた文化人としても名を馳せ、歌壇・文化両面で平安末期を彩りました。
他の歌について
徳大寺実定は『新古今和歌集』に、
「いつもきく麓の里とおもへども昨日にかはる山おろしの風」
という歌を残しています。
またこの歌は、いつも変わらぬと思っていた山里の風景に、
季節の移ろいを感じ取った一首です。
そして「山おろしの風」という自然の変化を通して、
無常と時の流れへの静かな感受性を詠んでいます。

徳大寺実定の歌は、ほととぎすや月などの自然を通じて、心の揺らぎと静けさを調和させる表現が特徴です。

華やかな公家社会の中にありながら、自然と一体となる心を大切にし、平安末期の“静の美学”を体現しています。
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』の百人一首における位置付け
この和歌は、去りゆく音と残る光の対比を
描いた静寂の一首です。
また鳴き終えたほととぎすの余韻と、
有明の月の静かな光が響き合い、
平安末期の優雅で儚い情趣(もののあはれ)を
象徴しています。
そして音の消えた後の「余白」に美を見出す、
洗練された感性が光ります。
徳大寺実定がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』背景解説–声のあと月では、徳大寺実定がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 自然の移ろいを詠むため
- 無常の美を表すため
- 静寂の中の心を映すため
自然の移ろいを詠むため
ほととぎすの声が消え、月だけが残る。
また音と光の対比を通して、
自然の移り変わりと時間の流れを
感じ取っています。
無常の美を表すため
鳴き声の終わりと月の静けさを重ね、
“去りゆくものの美しさ”=無常観を
象徴的に描いています。
静寂の中の心を映すため
音が消えた後に訪れる静けさの中に、
人の心の静謐と余韻を重ね合わせています。

この和歌は、夜明けの一瞬をとらえた自然詠でありながら、そこに深い心理的余韻を宿しています。

また鳴き終えたほととぎすの声の余白に、過ぎゆくものへの感慨と、残る月の永遠性を見出した実定。
静と動、音と光、儚さと永遠――そのすべてを調和させた、平安末期の“静の美”を象徴する一首です。
読み方と句意


百人一首 第 徳大寺実定 ※百人一首では後徳大寺左大臣
歌:ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる
読み:ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
句意:この和歌では、ほととぎすの鳴き声が消えた方を見やると、夜明けの空にはただ有明の月だけが残っていたと詠まれています。
「声のあと月」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
誰かの声が消えたあと、心に残る静けさ。忙しさの中で見過ごしていた“余韻”に気づくとき。徳大寺実定のこの歌では、去りゆくものの中にこそ美があることを、現代を生きる私たちに静かに語りかけてくれます。
- 静けさに宿る余韻
- 過ぎゆくものの美しさ
- 心の静寂を見つめる
静けさに宿る余韻
ほととぎすの声が消えたあとの静寂は、
ただの無音ではありません。
それは、聞く者の心が音の余韻を受け止める時間。
また現代でも、誰かの言葉や想いが
去ったあとに残る静けさの中で、
私たちは心の深いところで世界と向き合う瞬間を
感じています。
音が消えたあとに感じる“静けさ”こそ、心を映す鏡です。
過ぎゆくものの美しさ
ほととぎすの声が過ぎ、月だけが残る――。
この情景には、
“失われるからこそ美しい”という無常の感覚が
息づいています。
また現代の私たちも、
日々の別れや終わりの中に、
同じように儚い美を感じ、
そこに心の安らぎを
見いだすのではないでしょうか。
変わりゆくものを惜しむ心は、今も昔も変わりません。
心の静寂を見つめる
忙しさや情報の多い現代では、
“静けさ”そのものが貴重な時間です。
実定の歌は、音が消えた後の世界に
心の静謐と感謝の余白を見せてくれます。
私たちもまた、
静かな時間の中で心を整え、
“何もない美しさ”を感じ取る力を
取り戻せるのかもしれません。
雑音のない世界で、ようやく本当の自分に出会える瞬間があります。
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』の楽しみ方
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』背景解説–声のあと月では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 音と光の対比を味わう
- 静寂の時間を感じる
- 自然と心の共鳴を読む
音と光の対比を味わう
「声」と「光」という異なる感覚を
ひとつの瞬間に重ねた構図が見事です。
また音が消えることで光が際立ち、
光が残ることで時の流れが感じられる。
実定は、“去りゆくもの”と“残るもの”の美学を
巧みに描きました。
そして五感で味わうように読むことで、
この歌の奥行きが広がります。
鳴き声が消え、月の光だけが残る――。この“音と光の対照”が、和歌全体に静かな美を生み出しています。
静寂の時間を感じる
ほととぎすの声が遠ざかり、
世界が一瞬止まるような静けさ。
またその「間(ま)」には、
時間の流れと心の感応が交錯しています。
そして現代の私たちにも、
この“間”を感じ取る感性が大切です。
音が消えた瞬間の美しさに気づくことが、
この歌の最大の楽しみです。
この和歌の魅力は、音が消えたあとの“間”にあります。沈黙の中に漂う余韻と、心の静けさを感じ取ってみましょう。
自然と心の共鳴を読む
実定の歌は、単なる自然描写ではなく、
心の投影としての自然を描いています。
またほととぎすの声が止み、
月が残る――その光景の中に、
人の心の静まりが映る。
そして読むたびに、
自然と自分の心が呼応する瞬間を感じられる、
“共鳴の和歌”です。
自然の移ろいを、自らの心の動きと重ねて読むと深く味わえます。
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば」では、
夜明け前、ほととぎすの声が
遠ざかっていく空を見上げる。
その鳴き声の余韻を追うように、
静まりゆく空と心がひとつになる瞬間を詠んでいます。
去りゆく音の儚さに、
時間の流れと自然の無常を感じさせる情景です。
五音句の情景と意味「ほととぎす」


「ほととぎす」では、夏の夜明け、静寂を破るように鳴くほととぎす。そしてその声は季節の移ろいを告げる儚い命の響きです。
七音句の情景と意味「鳴きつる方を」


「鳴きつる方を」では、鳴き去ったその方角に目を向けると、音の残像が空に溶けていく。また聴覚から視覚への美しい転換が感じられます。
五音句の情景と意味「ながむれば」


「ながむれば」では、消えた声を追うように見上げるまなざし。そして静けさの中に残る余韻と、時の止まるような一瞬を表しています。
下の句(7-7)分析
下の句「ただ有明の 月ぞ残れる」では、
ほととぎすの声が遠く消え、
夜明けの空にはただ有明の月が静かに残る。
また去りゆく音と残る光の対比が美しく、
自然の移ろいの中に“無常の静けさ”が漂います。
そして声の余韻を照らす月が、
心の静寂を象徴しています。
七音句の情景と意味「ただ有明の」


「ただ有明の」では、夜が明けきらぬ空に残る有明の月。そして薄明の中に静けさと移ろう時の気配が漂います。
七音句の情景と意味「月ぞ残れる」


「月ぞ残れる」では、ほととぎすの声が消え、空に一つ月だけが残る。そして儚さと永遠が交差する静謐な余韻を描いています。
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』和歌全体の情景


夏の夜明け、ほととぎすの声が遠くに消え、空には静かに有明の月だけが残る――。音の終わりと光の残りが交わるその瞬間、自然の移ろいと人の心の静けさが溶け合う情景が広がります。実定は、過ぎゆくものの儚さと、残るものの美しさを見事に描き出しました。
▶次回記事はこちらから!
ほととぎすの声と月の光に余情を託した徳大寺実定の歌をたどったあとは、
恋の苦しみと涙の行方を詠んだ、藤原敦頼の一首へと進みましょう。
👉百人一首第82番 藤原敦頼『思ひわび』背景解説–堪へぬ想い
百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』まとめ
徳大寺実定の「ほととぎす」は、
去りゆく音と残る光の対比によって、
静寂の美を極めた一首です。
鳴き終えた鳥の声と
有明の月――その一瞬の移ろいに、
平安人の繊細な感性が息づいています。
音が消えたあとに訪れる
“間”の美を感じ取り、
無常の中にも永遠を見出す心が
詠まれています。

自然と感情が調和したこの歌は、時代を超えて“静けさの詩”として私たちの心に響き続けます。

百人一首第81番 徳大寺実定『ほととぎす』背景解説–声のあと月を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。



