百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
この一首は、
命を「玉の緒」という細い糸にたとえ、
生きながらえるほどに苦しくなる
忍ぶ想いを詠んでいます。

式子内親王の「玉の緒よ」は、感情を叫ばず、静かに内へと折りたたむことで、かえって深い切実さを伝える和歌です。

張りつめた心の揺れを、言葉の余白から感じ取ってみましょう。
▶前回の記事はこちらから!
命の細糸に託した忍ぶ想いへ進む前に、前回は 仮寝の一夜に身を尽くす恋の覚悟 が詠まれていました。
第88番・皇嘉門院別当『難波江の』では、はかなさの中で選び取る強い恋心を読み解いています。
決意の恋から、祈るような忍びの恋へ――あわせて読むことで、百人一首の恋の深まりがより鮮やかに感じられるでしょう。
式子内親王の生涯と百人一首の背景
生涯について


後白河天皇の皇女として生まれ、
平安末期を代表する女流歌人です。

また幼少より和歌に親しみ、宮廷文化の中で高い教養を身につけましたが、若くして賀茂斎院となり、清浄を求められる孤独な生活を送ります。

感情を表に出さず、内に秘めた想いを詠む歌風が特徴で、『新古今和歌集』では幽玄・有心の美を体現する存在として重く評価されました。
歴史的イベント
式子内親王が生きた時代は、
保元・平治の乱を経て、王朝社会の
安定が大きく揺らいだ転換期でした。

また政治的混乱と宗教的緊張が高まる中、和歌は心の均衡を保つ表現として重視されます。

百人一首に選ばれた「玉の緒よ」は、命の儚さと忍ぶ心の緊張を凝縮した一首で、時代が求めた内省的・精神的な美意識を象徴しています。
他の歌について
式子内親王は『新古今和歌集』に、
「忘れてはうちなげかるる夕べかな我のみ知りて過ぐる月日を」
という歌を残しています。
この歌は、人に知られることのない
思いを抱えながら、
同じように夕べを迎え続ける
心の孤独を詠んだ一首です。

また忘れようとしても、ふとした瞬間に嘆きがよみがえる――その繰り返しの中で、月日だけが静かに過ぎていく。

そして表に出せない感情を抱え続ける切なさが、式子内親王らしい静かな言葉で深く表現されています。
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』百人一首における位置付け
式子内親王の「玉の緒よ」は、
百人一首後半の恋歌の中でも、
感情を抑え込む精神的な緊張を
際立たせる一首です。
また情熱を外に向けず、
命の儚さと忍ぶ心を内省的に
詠む点に特色があり、
そして新古今的な幽玄美を代表する
歌として重要な位置を占めています。
式子内親王がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』背景解説–命の細糸では、式子内親王がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 忍ぶ想いが続くほど、心が弱っていくと感じたから
- 命そのものが張りつめていると感じたから
- 終わりを選ぶ覚悟と、生きる苦しさの間で揺れたから
忍ぶ想いが続くほど、心が弱っていくと感じたから
想いを外に出さず、胸の内に抱え続けるほど、
心は少しずつすり減っていく――。
また式子内親王は、生きながらえることで
忍耐が美徳でなくなる瞬間を鋭く感じ取り、
忍ぶことの限界をこの和歌に託しました。
命そのものが張りつめていると感じたから
「玉の緒」は命をつなぐ細い糸。
またいつ切れてもおかしくない不安定さは、
恋とともに生きる自身の
精神状態そのものでした。
そして命と感情が等しく危ういことを示すため、
生と恋を同じ比喩で結びつけて詠んだのです。
終わりを選ぶ覚悟と、生きる苦しさの間で揺れたから
「絶えなば絶えね」という言葉には、
諦めとも祈りとも取れる
強い響きがあります。
また生き続けることが必ずしも救いではない――
その思いが、断ち切る覚悟と
生への執着の間で揺れ、
言葉として凝縮された形がこの一首です。

この和歌は、恋の喜びではなく、忍び続けることで生じる心の消耗を真正面から見つめています。

また命が続くほど感情が弱っていくという逆説は、感情を抑え続けた式子内親王ならではの実感でしょう。
耐えることの美しさと、その裏にある限界を同時に示すことで、生きることそのものへの深い問いを投げかける一首となっています。
読み方と句意


百人一首 第 式子内親王
歌:玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
読み:たまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする
句意:この和歌では、命が尽きるならそれでもよい。生き続けるほど、忍び続けてきた想いが弱ってしまうと詠んでいます。
「命の細糸」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
「命の細糸」という言葉から、私たちは壊れやすさ・張りつめた心・無理を重ねる日常を思い浮かべます。そして切れそうで切れない糸のように、ぎりぎりのバランスで生きる感覚は、現代の私たちにも静かに重なっています。
- がんばり続けることの限界
- 感情を抑えることで弱っていく心
- 生きることを問い直す合図
がんばり続けることの限界
毎日を必死に乗り切りながら、
「まだ大丈夫」と自分に
言い聞かせていませんか。
また命の細糸は、切れなくても、
張りつめたままでは摩耗していきます。
耐えることが美徳とされがちな社会の中で、この言葉は無理を続ける前に立ち止まる必要をそっと教えてくれているようです。
感情を抑えることで弱っていく心
本音を飲み込み、感情を抑えるほど、
心は静かに疲れていきます。
また外からは見えなくても、
内側では確実に消耗が進んでいる。
「命の細糸」は、感情を押し殺すことで生まれる脆さを見逃さないでほしい、という現代への静かなメッセージにも感じられます。
生きることを問い直す合図
ただ生き続けるだけではなく、
どう生きるかを問い直すこと。
また命の細糸が張りつめたとき、
それは終わりではなく、
生き方を見つめ直す合図
なのかもしれません。
この言葉は、自分の心の声に耳を澄ませる勇気をそっと差し出してくれます。
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』の楽しみ方
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』背景解説–命の細糸では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 比喩としての「玉の緒」を味わう
- 緊張感のある時間の短さを感じる
- 余白に込められた覚悟を味わう
比喩としての「玉の緒」を味わう
この和歌の要は、命を「玉の緒」
という細く切れやすい糸にたとえた点です。
また命の脆さと、忍ぶ心の緊張が
一体となって立ち上がります。
そして比喩に注目して読むことで、
感情が直接語られないにもかかわらず、
胸に迫る切実さが鮮明になります。
言葉の置き換えが生む深さを味わうのが、この歌の第一の楽しみ方です。
緊張感のある時間の短さを感じる
結びは命令でも宣言でもなく、
問いかけの形。
また「絶えなば絶えね」と言い切りつつ、
「弱りもぞする」と可能性に開くことで、
覚悟と迷いが同時に存在します。
そしてこの揺れが、
読む人の心にも余白を残します。
答えを急がず、揺れのまま受け取ることで、歌の真価が見えてきます。
余白に込められた覚悟を味わう
式子内親王の歌は、嘆きを叫ばず、
内へ内へと畳み込みます。
また静かな語り口の奥に、
張りつめた感情の圧が潜む。
そして抑制された表現だからこそ、
読むほどに重さが増していく
感覚があります。
沈黙に近い言葉の力を感じながら、ゆっくり味わってみてください。
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば」では、
命を細い糸にたとえ、
その糸が切れてしまうならそれもよい、
と語りかける上の句です。
また生きながらえることが
必ずしも救いではなく、
耐え続けることで心がすり減っていく苦しさが、
静かな覚悟としてにじみ出ています。
五音句の情景と意味「玉の緒よ」


「玉の緒よ」では、命をつなぐ細い糸に、そっと呼びかけるような始まり。そして切れやすい生の緊張感と、祈るような心の集中が漂います。
七音句の情景と意味「絶えなば絶えね」


「絶えなば絶えね」では、その糸が切れてしまうなら、それも受け入れようとする覚悟。そして生を手放す可能性を静かに見据える決断がにじみます。
五音句の情景と意味「ながらへば」


「ながらへば」では、生き続けることを前提にした言葉が、かえって重く響く。そして命が続くほど増していく苦しさを含んだ静かな条件です。
下の句(7-7)分析
下の句「忍ぶることの 弱りもぞする」では、
想いを胸に秘め続けることで、
かえって心の力が失われていく不安が
語られます。
また耐えることが美徳とされる中で、
忍耐そのものが人を弱らせてしまう――
その逆説的な気づきを、
抑えた言葉で静かに
突きつける下の句です。
七音句の情景と意味「忍ぶることの」


「忍ぶることの」では、想いを表に出さず、胸の内に押しとどめる日々。そして耐え続ける行為そのものが重荷となっていく感覚が漂います。
七音句の情景と意味「弱りもぞする」


「弱りもぞする」では、忍耐を続けた末に、心の力が少しずつ削がれていく不安。そして静かに忍び寄る限界が言葉の奥に潜んでいます。
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』和歌全体の情景


命をつなぐ細い糸が、今にも切れそうな緊張の中で、耐え忍ぶ心が静かに揺れ動いています。また生き続けることが必ずしも救いではなく、想いを秘めるほどに心の力が削がれていく――その苦しさを、抑えた言葉で見つめる情景です。そして声を上げることなく、祈るように内へと沈む感情が、張りつめた静けさとなって周囲を包んでいます。
▶次回記事はこちらから!
次回は、百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』―変はらぬ色 をご紹介します。
涙に濡れても色を失わない袖に、変わらぬ想いを託した一首。静かな誠実さが心に残る和歌の世界を、ぜひ続けて味わってみてください。
👉百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』背景解説–変はらぬ色
百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』まとめ
式子内親王の「玉の緒よ」は、
命を細い糸にたとえ、
忍ぶ想いを抱え続けることで
生じる心の消耗を描いた一首です。
また生きながらえることと、
耐え続けることの苦しさを重ね合わせ、
静かな言葉の中に張りつめた緊張を
宿しています。

感情を声高に語らず、内省の深みで読者に問いを投げかける、新古今的幽玄美を代表する和歌です。

百人一首第89番 式子内親王『玉の緒よ』背景解説–命の細糸を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
関連ページ・一覧リンク集
🛤️ この百人一首の旅を、もう少し続けたい方へ
- ← [この和歌の背景解説へもどる]
- ← [第81〜90番を読むへ]
- ← [新三十六歌仙をめぐるへ]
- ← [女房三十六歌仙をめぐるへ]
- ← [天皇家の歌をめぐるへ]
- ← [百人一首の世界をめぐるへ]



