百人一首第93番 源実朝『世の中は』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第93番、源実朝の「世の中は」は、
移ろう世への切なる願いを詠んだ一首です。

渚を漕ぐ海人の小舟と、その綱手に寄せられた哀感が、常ならぬ世を生きる人の心を映します。

変わらぬものを求めながらも、変化を受け入れざるをえない——そんな無常のまなざしを、静かに味わってみましょう。
▶前回の記事はこちらから!
前回は、百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』―涙の渇かず をご紹介しました。
人に知られぬまま流れ続ける涙を、沖の石に託した忍ぶ恋の一首。静かな比喩に込められた想いの深さを、ぜひあわせて味わってみてください。
源実朝の生涯と百人一首の背景
生涯について


鎌倉幕府第三代将軍として生まれ、
政治の中心に置かれながらも、
和歌に深く心を寄せた歌人でした。

また幼少期から孤独を抱え、権力闘争の渦中にありながら、『金槐和歌集』を残すほどの才能を発揮します。

そして自然や日常の情景に無常や哀感を託す歌風は、武家の将軍という立場とは対照的で、繊細で内省的な心情がその生涯と作品を貫いています。
歴史的イベント
実朝の時代は、鎌倉幕府が成立し、
武家政権が本格化する激動期でした。
また将軍という地位は
象徴的な存在となり、
政治的実権は執権北条氏に
移っていきます。

こうした不安定な時代背景の中で詠まれた「世の中は」は、変わり続ける世への切実な願いを映す一首です。

百人一首においては、武家政権の時代精神と、個人の内面を結ぶ象徴的な位置を占めています。
他の歌について
源実朝は『続後撰和歌集』に、
「箱根路を我が越えくれば伊豆の海や沖の小島に波のよる見ゆ」
という歌を残しています。
この歌は、
旅の途中で出会った海の景を、
素直な眼差しで捉えた一首です。
山を越え、
視界が開けた瞬間に広がる伊豆の海と、
静かに波が寄せる小島。

その確かな描写には、源実朝の現実を見つめる感性と、移ろう自然に無常を感じ取る心が表れています。

旅の実感と内省が重なり合う、実朝らしい和歌です。
百人一首第93番 源実朝『世の中は』百人一首における位置付け
源実朝の「世の中は」は、
百人一首終盤に置かれ、
無常を見つめる静かな願いを
象徴する一首です。
また変わらぬ世を望む心と、
現実の移ろいとの隔たりが、
海人の小舟の情景に重ねられています。
そして武家政権下に生きた歌人の内面が、
穏やかな比喩によって深く伝わります。
源実朝がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第93番 源実朝『世の中は』背景解説–常ならぬ世では、源実朝がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 変わらぬ世を願う心を、正直に置くため
- 自然の情景に、無常の感覚を託すため
- 感情を抑え、余韻で伝えるため
変わらぬ世を願う心を、正直に置くため
「常にもがもな」という言葉には、
移ろい続ける世に対する
率直な願いが込められています。
また変化を拒むというより、
安らぎの続く時間を求める心。
そして実朝はその思いを理屈で包まず、
願いとしてそのまま歌に置くことで、
人の弱さと切実さを静かに示しました。
自然の情景に、無常の感覚を託すため
渚を漕ぐ海人の小舟と、その綱手は、
常に揺れ、定まらない存在です。
またその不安定さに、
人の世の移ろいが重なります。
そして抽象的な無常を語るのではなく、
目に見える情景に託すことで、
誰もが実感できる無常として
描こうとしました。
感情を抑え、余韻で伝えるため
嘆きや悲しみを強く打ち出さず、
結句を「かなしも」と柔らかく結ぶことで、
感情は抑制されています。
またその控えめな語り口が、
かえって深い余韻を生む。
実朝は、
言い切らない表現の中に心を沈めることで、
静かな哀感を伝えようとしました。

この和歌は、世を厭う歌ではなく、変わりゆく現実を前にした、人としての自然な願いを描いています。

また源実朝は将軍という重い立場にありながら、安定を求める心と、それが叶わない現実を深く知っていました。
「常にもがもな」という一言に、時代と個人の不安が静かに重なります。
読み方と句意


百人一首 第 源実朝 ※百人一首では鎌倉右大臣
歌:世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも
読み:よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも
句意:この和歌では、変わらぬ世であってほしいと願いながら、渚を漕ぐ海人の小舟に、世の移ろいと哀感を重ねて詠んでいます。
「常ならぬ世」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
変化の速い時代を生きる私たちは、落ち着かない日々の中で、ふと「このままでいてほしい」と願います。また「常ならぬ世」から感じるのは、安定への希求・先の見えなさ・受け入れる覚悟。そして揺れる現実と向き合う心が、この言葉には静かに映っています。
- 安定を求める気持ち
- 先の見えなさへの戸惑い
- 変化を受け入れる覚悟
安定を求める気持ち
忙しさや不安が続くほど、
変わらない日常を望む心は強くなります。
またそれは逃げではなく、
安心して息ができる場所を探す本能。
「常ならぬ世」は、誰もが抱く安定への素直な願いを、否定せずに受け止めてくれます。
先の見えなさへの戸惑い
将来が予測しにくい時代では、
小さな変化にも心が揺れます。
また思い通りに進まない現実に、
戸惑いや不安を覚えるのは自然なこと。
この言葉は、不確かさの中で立ち止まる感覚を、そっと言葉にしてくれます。
変化を受け入れる覚悟
常ならぬ世を嘆くだけでなく、
その中で生きていくしかない。
またそう悟る瞬間に、
人は少し強くなります。
「常ならぬ世」は、変わる現実を抱えながら進む決意を、静かに促す言葉でもあります。
百人一首第93番 源実朝『世の中は』の楽しみ方
人一首第93番 源実朝『世の中は』背景解説–常ならぬ世では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 変わらぬものへの願いを読む
- 小舟の情景に心を委ねる
- 哀しみを否定しない読み方
変わらぬものへの願いを読む
「世の中は常にもがもな」
という率直な願いに、
人が本能的に求める安定や
平穏がにじみます。
また理想と現実の隔たりを
嘆きながらも、
それでも変わらぬものを思い描く心。
この一句を、自分が今“変わってほしくないもの”に重ねて読むと、和歌は急に身近な言葉になります。
小舟の情景に心を委ねる
渚を漕ぐ海人の小舟と、
その綱を引く姿は、
不安定な人生そのものの比喩。
また大海に出ず、
岸辺にとどまる小さな営みに、
実朝は深い哀感を見ています。
情景を追うのではなく、小舟に自分を重ねて眺めるように読むことで、静かな共感が生まれます。
哀しみを否定しない読み方
この歌は、悟りきる強さを語りません。
変わりゆく世を前に、
「かなしい」と感じる心を
そのまま差し出しています。
だからこそ、
無理に前向きにならなくていい。
弱さや迷いを抱えたままでも生きていい——そんな許しを感じ取りながら読むのが、この和歌のいちばんの楽しみ方です。
百人一首第93番 源実朝『世の中は』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ」では、
変わり続ける世の中に対して
「せめて常であってほしい」という
切実な願いが率直に語られます。
またその思いはすぐに、
渚を静かに漕ぐ海人の小舟という
具体的な情景へと移り、
移ろいやすい人生を象徴する
舞台が整えられます。
そして願いと現実が、
穏やかな景色の中で並び置かれています。
五音句の情景と意味「世の中は」


「世の中は」では、目の前に広がる現実そのものを静かに見渡す視線。そして人の世の移ろい、避けられない不安や無常が、一句の冒頭に重く置かれています。
七音句の情景と意味「常にもがもな」


「常にもがもな」では、変わらないでほしいという、切実で素朴な願い。そして抗うことのできない無常を知りつつ、心の奥からこぼれる祈りの言葉です。
五音句の情景と意味「渚漕ぐ」


「渚漕ぐ」では、静かな浜辺を小舟が進む穏やかな光景。そして人の営みの小ささと、それでも続いていく日常の時間が感じられます。
下の句(7-7)分析
下の句「海人の小舟の 綱手かなしも」では、
荒れやすい海辺で、
細い綱に身を委ねて進む小舟。
またその頼りなさに、
人の命や暮らしの儚さが重ねられます。
そして変わらぬ日々を願う心が、
綱に託され、
静かな哀感となって響いています。
七音句の情景と意味「海人の小舟の」


「海人の小舟の」では、海辺を行き交う小さな漁師の舟。そして大海に対してあまりに小さく、人の営みが自然の中に置かれたか弱い存在として浮かび上がります。
七音句の情景と意味「綱手かなしも」


「綱手かなしも」では、舟をつなぐ細い綱に、命と暮らしが託されています。そしてその頼りなさが、変わりゆく世を生きる人の切なさとなり、静かな哀しみを帯びて胸に残ります。
百人一首第93番 源実朝『世の中は』和歌全体の情景


渚を漕ぐ海人の小舟が、静かな海に浮かんでいます。また細い綱に頼って進むその姿は、穏やかでありながら、どこか心もとない。
源実朝は、変わり続ける世の中の中で、この小さな舟に人の命や暮らしを重ねました。
そして常ならぬ世への不安と、それでも続いてほしい日常への願いが、静かな哀感となって漂う一首です。
百人一首第93番 源実朝『世の中は』まとめ
この和歌は、源実朝が抱いた
「変わらないでほしい」
という切実な願いを、
海人の小舟という静かな情景に
託して描いています。
世は常に移ろい、
人の命や暮らしは
細い綱のように心もとない。

それでも日々を慈しみ、続いてほしい平穏を願う心が、深い哀しみとやさしさをもって胸に残る一首です。

百人一首第93番 源実朝『世の中は』背景解説–常ならぬ世を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。

