百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第94番、飛鳥井雅経の「み吉野の」は、
吉野の山に吹く秋風と、
夜更けに響く衣打つ音を詠んだ一首です。

深まる夜の冷えと、遠くから伝わる音が、ふるさとの寒さと懐かしさを静かに呼び起こします。

音と気配で描かれる寒夜の情景を、ゆっくり味わってみましょう。
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前回は、百人一首第93番 源実朝『世の中は』―常ならぬ世 をご紹介しました。
変わらぬ世を願いながら、移ろう現実を静かに見つめた実朝の一首。小舟に託された無常のまなざしを、ぜひあわせて味わってみてください。
飛鳥井雅経の生涯と百人一首の背景
生涯について


飛鳥井雅経 Wikipedia(1192年-1219年)は、
鎌倉時代前期に活躍した公家歌人で、
名門飛鳥井家の一員です。
和歌や蹴鞠の名手として知られ、
宮廷文化の担い手として高い評価を受けました。

また『新古今和歌集』以後の勅撰集にも多くの歌を残し、静かな情景の中に繊細な感情を織り込む作風が特徴です。

そして自然と心情を結びつける技巧に優れ、後世の歌人にも影響を与えました。
歴史的イベント
雅経の生きた時代は、
鎌倉幕府が成立し、
武家政権が確立していく過渡期でした。
また政治の中心が
京都から鎌倉へと移るなかでも、
宮廷では和歌文化が継承され続けます。

「み吉野の」は、そうした時代背景の中で生まれた、失われゆく王朝的情趣へのまなざしを映す一首です。

百人一首においては、静かな余情と古都への思いを象徴する位置を占めています。
他の歌について
飛鳥井雅経は『新古今和歌集』に、
「白雲のたえまになびく青柳のかづらき山に春風ぞ吹く」
という歌を残しています。
この歌では、白雲の切れ間からのぞく空の下、
青柳が風にゆれる葛城山の春景色が
描かれています。

動きは穏やかでありながら、春風の気配が全体に満ち、静と動がやわらかく調和します。

雅経は、目に映る自然の一瞬を端正な構図でとらえ、そこに季節の息吹と清らかな美を重ねています。
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』百人一首における位置付け
百人一首第94番は、
新古今的な幽玄美を色濃く伝える一首です。
夜更けの秋風と
衣打つ音という聴覚的情景を通して、
吉野の山里の寒さと孤独を描きます。
また華やかさよりも静かな余情を
重んじる作風が際立ち、
後期百人一首における典雅な
秋の代表歌といえる位置付けです。
飛鳥井雅経がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』背景解説–吉野の寒夜では、飛鳥井雅経がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 秋の夜の寂寥を映すため
- 聴覚による情景表現への挑戦
- 新古今的幽玄美の追求
秋の夜の寂寥を映すため
吉野の山に吹く秋風と、
夜更けに響く衣打ちの音。
自然と人の営みが重なる瞬間に、
深い寂しさを感じ取り、
その心情を一首に託したと考えられます。
聴覚による情景表現への挑戦
視覚ではなく「音」によって
秋の深まりを描こうとした
意図がうかがえます。
また衣を打つ響きが、
寒さと孤独をより強く印象づけています。
新古今的幽玄美の追求
はっきりと感情を語らず、
余白に情趣をにじませる詠み方です。
また静かな山里の夜に
漂う気配そのものを、
美として表現しようとしたのでしょう。

飛鳥井雅経は、新古今和歌集の時代に生きた歌人として、自然の気配と人の心を繊細に重ね合わせました。

またこの歌も、吉野という象徴的な地を舞台に、秋の夜更けの冷えと孤独を描きながら、声高に嘆くことなく余情を残します。
静寂の中に響く衣打つ音こそが、心の奥の寒さをそっと語っているのです。
読み方と句意


百人一首 第 飛鳥井雅経 ※百人一首では参議雅経
歌:み吉野の 山の秋風 さよ更けて ふるさと寒く 衣打つなり
読み:みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
句意:この和歌では、秋風が吹きすさぶ吉野の夜更け、山里の寒さがしみわたり、衣を打つ音に故郷の寂しさが静かに響いている情景を詠んでいます。
「吉野の寒夜」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
冷たい夜風、ひとりの時間、そして遠くから届く生活の音。そして「吉野の寒夜」という言葉から、私たちは①孤独、②故郷への想い、③季節の深まりという三つの感情を思い浮かべるのではないでしょうか。
- ひとりの夜の静けさ
- 故郷を思う気持ち
- 季節の深まりを感じる瞬間
ひとりの夜の静けさ
現代でも、
静まり返った深夜に
ふと感じる孤独や不安は、
時代を越えて変わらぬもの。
また寒さは、
心の内側を映す鏡のようです。
夜が更けるほど、周囲の音が消え、自分の心の声だけがはっきりと聞こえてきます。
故郷を思う気持ち
忙しい日々のなかで忘れていた
懐かしい風景や人のぬくもりを、
冷たい夜風がふと思い出させる――
そんな感覚が重なります。
「ふるさと寒く」という響きは、遠く離れた場所への郷愁を呼び起こします。
季節の深まりを感じる瞬間
冷え込む空気や
衣を打つ音のような生活の気配は、
季節が確かに進んでいる証です。
また自然の変化に心を寄せることで、
私たちは時間の流れを静かに
受け止めているのかもしれません。
秋が深まり、やがて冬へ向かう夜。
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』の楽しみ方
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』背景解説–吉野の寒夜では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 音の情景を味わう
- 寒さの中の人の気配を読む
- 時間の流れを想像する
音の情景を味わう
秋の夜更け、
静まり返った吉野の里に、
遠くから衣を打つ音が
ひびく情景が浮かびます。
また視覚だけでなく“聴覚”で読むことで、
冷えた空気や夜の深まりまで
立体的に感じ取ることができます。
「衣打つなり」という結びに耳を澄ませてみましょう。
寒さの中の人の気配を読む
衣を打つという
日常の営みがあることで、
単なる風景ではなく
「生きている場所」としての
吉野が立ち上がり、
歌に温もりと哀愁が宿ります。
山の秋風が吹き、里は寒くなっていく――その厳しい自然の描写のなかに、人の暮らしがそっと置かれています。
時間の流れを想像する
夕暮れから夜更けへ、
そして冷え込む深夜へと
移ろう流れを想像しながら読むと、
季節と時間が重なり合う奥行きが
見えてきます。
そして静かな推移こそが、
この和歌の大きな魅力です。
「さよ更けて」という言葉には、ゆっくりと夜が進む時間の感覚が込められています。
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「み吉野の 山の秋風 さよ更けて」では、
吉野の山に吹き渡る秋風が、
夜の更けゆく静寂をいっそう深めていきます。
また夕暮れから夜へと移ろう時間の中で、
冷えた空気が山里を包み込み、
そして自然の厳しさと静けさが
同時に感じられる情景が広がります。
五音句の情景と意味「み吉野の」


「み吉野の」では、目の前に広がる吉野の山々を、静かに見渡すまなざし。そして歴史を重ねた土地の気配と、自然に包まれた静寂が、冒頭にゆったりと置かれています。
七音句の情景と意味「山の秋風」


「山の秋風」では、山を吹き渡る秋風の冷たさを、そのまま受け止める感覚。そして季節の深まりや夜への移ろいが、張りつめた空気とともに描かれています。
五音句の情景と意味「さよ更けて」


「さよ更けて」では、夜がしだいに更けていく時間の重み。そして静まり返る闇の中で、寒さと孤独がそっと心に差し込む感覚が凝縮されています。
下の句(7-7)分析
下の句「ふるさと寒く 衣打つなり」では、
冷え込む吉野の里に、
衣を打つ音がひびいています。
また山の秋風が吹きすさぶ夜更け、
遠くから届くその音は、
人の暮らしのぬくもりと同時に、
深い寂しさも感じさせます。
そして自然の寒さと人の営みが
重なり合う情景です。
七音句の情景と意味「ふるさと寒く」


「ふるさと寒く」では、目の前に広がる山里の冷え込みを、静かに受け止める感覚。そして故郷に重なる郷愁と、身にしみる寒さが、この一句にしっとりと置かれています。
七音句の情景と意味「衣打つなり」


「衣打つなり」では、夜更けの静寂の中に、遠くから響く衣を打つ音。そして人の営みの気配と、孤独を深める余韻が、結びに静かに残されています。
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』和歌全体の情景


吉野の山に秋風が吹き、夜はしだいに更けていきます。冷え込む山里の空気の中、遠くから衣を打つ音が静かに響きます。自然の厳しさと人の営みが重なり合い、寒さと郷愁が溶け合う、澄んだ夜の情景が広がっています。
百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』まとめ
吉野の寒夜を描いたこの一首は、
自然の冷たさと人の営みを
重ね合わせることで、
深い余情を生み出しています。
また秋風の吹く山里に響く衣打ちの音は、
孤独や郷愁をそっと映し出します。

そして静かな描写の中に広がる情感こそが、この和歌の大きな魅力です。

百人一首第94番 飛鳥井雅経『み吉野の』背景解説–吉野の寒夜を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。

