百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
この歌が語るのは、
どれほど涙に濡れても、
決して変わらない想いです。

殷富門院大輔の「見せばやな」は、雄島の海人の袖という素朴な情景を借りて、時を重ねても色あせぬ恋心を静かに描いています。

激しさではなく、変わらなさに宿る真実を、言葉の余白から味わってみましょう。
▶前回の記事はこちらから!
変わらぬ想いを語るこの一首の前に、前回は 命を細い糸にたとえ、忍ぶ心の限界を見つめた和歌がありました。
百人一首第89番・式子内親王『玉の緒よ』では、生きながらえるほどに弱っていく心の緊張を、静かな言葉で読み解いています。
忍ぶ恋から、変わらぬ恋へ――
その移ろいを、ぜひ続けて味わってみてください。
殷富門院大輔の生涯と百人一首の背景
生涯について


平安時代後期の女流歌人で、
後白河天皇の皇女・殷富門院に仕えた女房です。

また宮廷において和歌の才能を高く評価され、『千載和歌集』『新古今和歌集』などに多くの作品が採られました。

感情を誇張せず、日常の情景に心情を重ねる穏やかな歌風が特徴で、誠実で変わらぬ想いを静かに表現する点に魅力があります。
歴史的イベント
殷富門院大輔が活躍した時代は、
院政期から鎌倉時代初頭にかけて、
貴族社会の価値観が大きく
揺らいだ時期でした。

また政治的混乱の中で、和歌は心の拠り所として重要性を増し、派手さよりも内面の誠実さが重んじられます。

百人一首に選ばれた「見せばやな」は、濡れても変わらぬ想いを詠むことで、時代が求めた安定した情感と精神性を象徴する一首となっています。
他の歌について
殷富門院大輔は『新古今和歌集』に、
「花もまたわかれん春は思ひ出でよ咲き散るたびの心づくしを」
という歌を残しています。
この歌は、花の散りゆく姿に、
人との別れや積み重ねた想いを重ねた一首です。

また春の終わりに向かう中で、咲いては散る花に注いできた心のすべてを思い返してほしいと語りかけます。

そして移ろう時の中でも変わらず注がれた想いを、やさしく、しかし確かに伝える点に、殷富門院大輔らしい誠実な情感が表れています。
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』百人一首における位置付け
殷富門院大輔の「見せばやな」は、
百人一首後半の恋歌の中でも、
涙に濡れても変わらぬ想いを
静かに示す一首です。
また激しさよりも持続する誠実さを重んじ、
自然の情景に心情を託す
新古今的美意識を体現しています。
殷富門院大輔がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』背景解説–変はらぬ色では、殷富門院大輔がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 変わらぬ想いを、はっきりと示したかったから
- 自然の姿に心を重ねて伝えたかったから
- 派手さではなく誠実さを大切にしたから
変わらぬ想いを、はっきりと示したかったから
恋は時とともに薄れるもの、
という見方に対し、
殷富門院大輔は「濡れても色は変わらない」と
言い切ります。
また涙に濡れるほどの辛さがあっても、
心の奥にある想いは揺らがない。
そして変化の中でこそ変わらぬものがあることを、
強く、しかし静かに伝えたかったのです。
自然の姿に心を重ねて伝えたかったから
雄島の海人の袖は、
日々の労働で濡れることが当たり前の存在です。
またその袖の色が変わらないように、
恋心もまた変わらない――。
そして身近な自然や生活の情景を借りることで、
誠実な想いをわかりやすく、
確かに示そうとしました。
派手さではなく誠実さを大切にしたから
激情や嘆きを強く打ち出すのではなく、
あえて穏やかな言葉で語ることで、
想いの深さを際立たせています。
また声高に訴えないからこそ、
かえって心に残る。
そして静かな表現の中にある強さを、
この和歌で示そうとしたのです。

この和歌は、恋の苦しさそのものよりも、その中で守り続けてきた心の姿勢に光を当てています。

また涙に濡れる現実と、変わらぬ心とを対比させることで、時間や状況に左右されない誠実さを表現しました。
激しい感情を抑え、日常の情景に託して語ることで、静かで確かな恋のあり方を示した一首です。
読み方と句意


百人一首 第 殷富門院大輔
歌:見せばやな 雄島の海人の 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず
読み:みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず
句意:この和歌では、涙に濡れるほど辛い思いをしても、恋心の色は決して変わらないことを、海人の袖に託して詠んでいます。
「変はらぬ色」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
変わり続ける日常の中で、それでも手放したくない想いがあります。また「変はらぬ色」という言葉から感じるのは、揺れない誠実さ・積み重ねの時間・信じ続ける強さ。そして移ろいの速い現代だからこそ、この言葉は静かに胸に響きます。
- 揺れない誠実さ
- 時間を重ねることで深まる想い
- 信じ続けるという選択
揺れない誠実さ
状況や評価が変わっても、
自分の中の大切な気持ちは変えない。
またそれは頑なさではなく、
自分を裏切らないという誠実さです。
「変はらぬ色」は、外からは見えにくい内面の一貫性こそが、人の信頼や関係を支えると教えてくれます。
時間を重ねることで深まる想い
長く続くものは、
決して最初のままではいられません。
また傷つき、濡れながらも
続いてきたからこそ、
色は落ちず、むしろ深まっていく。
この言葉は、続けてきた時間そのものが価値になるという、現代にも通じる感覚を示しています。
信じ続けるという選択
変わらないことは、
自然に起こるのではなく、
日々選び続ける行為です。
また疑いが生まれる瞬間にも、
それでも信じると決める。
「変はらぬ色」は、迷いの中で下される静かな決断を私たちに思い出させてくれます。
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』の楽しみ方
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』背景解説–変はらぬ色では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 「変わらなさ」を主題として読む
- 自然の比喩に心を重ねて読む
- 声高でない強さを感じ取る
「変わらなさ」を主題として読む
この和歌の中心にあるのは、
恋の激しさではなく、
涙に濡れてもなお保たれる
「変はらぬ色」です。
また感情の起伏よりも、
時間や苦しさを経ても
揺らがない心に目を向けることで、
誠実さの重みが際立ちます。
変化の中で保たれるものに注目して読むと、静かな強さが胸に残る一首として味わえます。
自然の比喩に心を重ねて読む
雄島の海人の袖は、
日々濡れることを宿命とした存在です。
その袖の色が変わらないという比喩に、
恋における耐え忍ぶ日常が重なります。
自然や生活の情景に心情を託すことで、感情を語りすぎず、余韻を生む。比喩の奥にある感情を想像しながら読むのが、この歌の醍醐味です。
声高でない強さを感じ取る
この和歌は、
嘆きも誓いも強く主張しません。
それでも、言葉の端々から、
変わらぬ想いを守り続けてきた
時間の重みが伝わります。
また抑えた表現だからこそ、
読むほどに誠実さがにじみ出る。
静かな語りに宿る確かな意志を感じ取りながら、ゆっくり味わってみてください。
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「見せばやな 雄島の海人の 袖だにも」では、
人に見せたいほどの思いを、
雄島で働く海人の袖という
具体的な情景に託して描きます。
日々海に向き合い、
袖を濡らし続ける姿を思い浮かべることで、
変わらぬ想いを抱え続ける心の在り方が、
静かに浮かび上がる上の句です。
五音句の情景と意味「見せばやな」


「見せばやな」では、胸に秘めてきた想いを、誰かにそっと示したいという願い。また語らずに伝えたい切実さが、静かに立ち上がります。
七音句の情景と意味「雄島の海人の」


「雄島の海人の」では、荒波と向き合いながら働く海人の姿。そして日常として袖を濡らすその生活が、耐え続ける時間の重みを映しています。
五音句の情景と意味「袖だにも」


「袖だにも」では、せめて袖だけでも見てほしいという控えめな言い方。感情を抑えた慎ましさの中に、深い想いが滲みます。
下の句(7-7)分析
下の句「濡れにぞ濡れし 色は変はらず」では、
幾度となく涙や海水に濡れながらも、
袖の色が変わらないことが強調されます。
それは、辛さや年月を重ねても
揺らがない恋心の比喩。
外から見える変化よりも、
内に守り続けてきた想いの不変性を、
静かに、しかし確かに示す下の句です。
七音句の情景と意味「濡れにぞ濡れし」


「濡れにぞ濡れし」では、涙や海水に幾度も濡れ、袖は重く冷たくなっていく。そして積み重なる辛さと時間が、静かに伝わります。
七音句の情景と意味「色は変はらず」


「色は変はらず」では、どれほど濡れても、袖に宿る色は失われない。そして苦しみを経ても揺らがぬ心が、凛と浮かびます。
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』和歌全体の情景


荒海に向かい日々働く雄島の海人の袖が、幾度も濡れながら色を失わない姿が思い浮かびます。またその情景に、涙に濡れ続けても変わらぬ恋心が重なります。
そして声高に訴えることなく、自然の姿を借りて想いを示すことで、苦しみを経ても揺らがない誠実さが際立ちます。
静かな比喩の中に、長い時間を耐え抜いた心の強さが宿る一首です。
▶次回記事はこちらから!
次回は、百人一首第91番 九条良経『きりぎりす』―霜夜のひとり寝 をご紹介します。
霜の降りる夜に響く虫の声と、寒むしろにひとり眠る静けさ。音と冷えが描く孤独の余情を、ぜひ続けて味わってみてください。
👉百人一首第91番 九条良経『きりぎりす』背景解説–霜夜のひとり寝
百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』まとめ
殷富門院大輔の「見せばやな」は、
涙に濡れても変わらぬ恋心を、
雄島の海人の袖という身近な情景に
託して詠んだ一首です。
激しい言葉を用いず、
抑えた表現で想いの深さを伝える点に、
新古今時代らしい美意識が表れています。

変化の多い世にあっても、守り続ける誠実さの尊さを、静かに教えてくれる和歌です。

百人一首第90番 殷富門院大輔『見せばやな』背景解説–変はらぬ色を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
関連ページ・一覧リンク集
🛤️ この百人一首の旅を、もう少し続けたい方へ
- ← [この和歌の背景解説へもどる]
- ← [第81〜90番を読むへ]
- ← [新三十六歌仙をめぐるへ]
- ← [女房三十六歌仙をめぐるへ]
- ← [百人一首の世界をめぐるへ]



