百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
二条院讃岐の「わが袖は」は、
誰にも知られぬ恋の涙を、
沖の石に重ねて詠んだ一首です。

乾くことのない袖に、秘め続けた想いの深さがにじみます。

語られない心情が、かえって強く胸に迫るこの和歌を、静かに味わってみましょう。
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前回は、百人一首第91番 九条良経『きりぎりす』―霜夜のひとり寝 をご紹介しました。
霜夜に響く虫の声と、寒むしろにひとり眠る静けさ。音と冷えが映し出す孤独の余情を、ぜひあわせてご覧ください。
二条院讃岐の生涯と百人一首の背景
生涯について


二条院讃岐 Wikipedia(1141年-1217年)は、
平安時代後期から鎌倉時代初頭にかけて
活躍した女流歌人です。
また後鳥羽天皇の皇后・二条院に仕え、
その才を認められて宮廷歌壇で
高く評価されました。

そして『新古今和歌集』などに多くの作品が収められ、特に、秘めた恋や忍ぶ心情を自然の比喩に託す繊細な表現に定評があります。

静かでありながら深く沁み入る歌風が、その魅力です。
歴史的イベント
二条院讃岐が生きた時代は、
院政期から武家政権成立へと
向かう転換期でした。

また宮廷社会の安定が揺らぐ中、和歌は公的な儀礼だけでなく、個人の内面を映す表現として重みを増します。

百人一首に選ばれた「わが袖は」は、表に出せない想いを涙に託し、知られぬ恋を耐え続ける心を象徴する一首として、時代の精神性を映し出しています。
他の歌について
二条院讃岐は『新古今和歌集』に、
「憂きもなほ昔のゆゑと思はずはいかに此の世を恨みはてまし」
という歌を残しています。
この歌は、
苦しみの原因を過去の因縁に求めながら、
それでも現世のつらさを引き受けようとする
心を詠んだ一首です。

また運命への嘆きを直接ぶつけるのではなく、理知的に受け止めようとする姿勢に、二条院讃岐の内省的で静かな感情表現がよく表れています。
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』百人一首における位置付け
二条院讃岐の「わが袖は」は、
百人一首終盤に配された、
秘めた恋と尽きぬ涙を描く一首です。
また人に知られぬ想いを沖の石に託し、
感情を抑えた比喩で深さを示す表現は、
新古今時代の内省的な美意識を
よく表しています。
二条院讃岐がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』背景解説–涙の渇かずでは、二条院讃岐がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 人に知られぬ想いを、静かに伝えるため
- 尽きることのない涙を、自然に重ねるため
- 嘆きを強めず、忍ぶ姿勢を貫くため
人に知られぬ想いを、静かに伝えるため
この和歌では、
恋の苦しさを誰かに訴えることはありません。
また「人こそ知らね」とあるように、
想いは胸の内に秘められたままです。
だからこそ、涙に濡れ続ける袖という比喩を用い、
言葉にしない心情を、
情景によって伝えようとしました。
尽きることのない涙を、自然に重ねるため
沖の石は、潮が引いても
水に浸かったままの存在です。
またその姿に、
乾く間もない袖を重ねることで、
涙が一時の感情ではないことを
示しています。
そして自然のあり方を借りることで、
想いの深さと長さを、
無理なく表現しようとしたのです。
嘆きを強めず、忍ぶ姿勢を貫くため
悲しみや恨みを前面に出すのではなく、
抑えた語り口を選んでいる点も特徴です。
また涙は流れているが、
声は荒立てない。
そしてその静けさの中に、
耐え続ける心の強さをにじませることが、
この和歌の狙いでした。

この和歌は、恋の成就や不成就を語るものではなく、想いを抱え続ける時間そのものを描いています。

また沖の石のように、人目には触れずとも、確かに濡れ続けている心。二条院讃岐は、感情を爆発させる代わりに、自然の比喩に託して静かに示しました。
語られない涙の重みが、読む者の心に深く残る一首です。
読み方と句意


百人一首 第 二条院讃岐
歌:わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね かわく間もなし
読み:わがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
句意:この和歌では、人に知られぬ恋の涙で袖は乾くことがない。その尽きぬ想いを、潮に浸る沖の石にたとえて詠んでいます。
「涙の渇かず」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
忙しい毎日の中でも、ふとした瞬間にこみ上げてくる想いがあります。そして「涙の渇かず」から感じるのは、表に出せない感情、時間とともに積もる心、誰にも見せない弱さ。強がることが当たり前になった今だからこそ、この言葉は静かに胸に触れます。
- 表に出せない感情
- 時間が経っても消えない心
- 弱さを抱えたまま生きる強さ
表に出せない感情
誰にも話せず、
心の奥にしまい続けている想い。
それは消えたわけではなく、
ただ外に出ていないだけかもしれません。
「涙の渇かず」は、見えないところで続いている感情の存在をそっと肯定してくれる言葉です。
時間が経っても消えない心
時間が解決してくれる、
そう言われることもあります。
けれど、年月を重ねても
変わらず胸に残る想いもある。
この言葉は、忘れられない気持ちがあること自体を、否定しないやさしさを含んでいます。
弱さを抱えたまま生きる強さ
涙が乾かないことは、
弱さの証のように見えるかもしれません。
でも、抱え続けながら生きているなら、
それはもう強さでもある。
「涙の渇かず」は、感情を抱えたまま進むことの尊さを静かに教えてくれます。
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』の楽しみ方
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』背景解説–涙の渇かずでは、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 自然の比喩に心情を重ねて読む
- 語られない心情を想像する
- 静かな忍耐の美を感じ取る
自然の比喩に心情を重ねて読む
沖の石は、潮が引いても
乾くことのない存在です。
またその姿に、
涙で濡れ続ける袖を重ねることで、
感情の長さと深さが示されます。
自然の状態を丁寧に思い浮かべるほど、
心情は説明されずとも伝わってくる。
比喩の具体性が、感情の抽象を支える——その巧みさを味わうのが、この歌の第一の楽しみ方です。
語られない心情を想像する
「人こそ知らね」とあるように、
この和歌は他者に向けた訴えを
避けています。
また感情を語らないからこそ、
読む側は余白に思いを
巡らせることになる。
声にならなかった理由、語られなかった時間を想像してみると、沈黙の中にある切実さが、いっそう深く胸に届きます。
静かな忍耐の美を感じ取る
涙は流れているが、
嘆きは強調されない。
また抑えた語り口の奥に、
耐え続ける心の姿勢がにじみます。
そして感情を抑制することで、
かえって誠実さが際立つ。
派手さを排した忍ぶ美に目を向けると、新古今時代の感性が、静かに立ち上がってきます。
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の」では、
潮が引いても姿を現さない沖の石に、
涙で濡れ続ける袖を重ねた表現です。
また人目には触れずとも、
常に水に浸る石のように、
秘めた想いが途切れることなく続いている心情を、
静かな自然の比喩で示す上の句です。
五音句の情景と意味「わが袖は」


「わが袖は」では、涙に濡れ続ける袖を見つめ、自分だけが知る悲しみを静かに意識する場面です。
七音句の情景と意味「潮干に見えぬ」


「潮干に見えぬ」では、潮が引いても姿を現さないもの。そして人目に触れぬまま続く想いが、ひそやかに重なります。
五音句の情景と意味「沖の石の」


「沖の石の」では、常に水に浸る沖の石が浮かび、絶えず濡れ続ける心の比喩となっています。
下の句(7-7)分析
下の句「人こそ知らね かわく間もなし」では、
誰にも知られぬまま、
涙が絶えることのない心を語ります。
また訴えも嘆きも強めず、
ただ事実として静かに置く言い回しが、
忍び続ける想いの深さを際立たせる。
そして語られぬ涙の持続が、
余韻として長く残る下の句です。
七音句の情景と意味「人こそ知らね」


「人こそ知らね」では、想いは胸の内に秘められ、誰の目にも触れない。そして知られぬまま続く孤独が、静かに漂います。
七音句の情景と意味「かわく間もなし」


「かわく間もなし」では、涙は絶えることなく、袖は常に湿っている。そして時間とともに続く哀しみが、淡く伝わります。
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』和歌全体の情景


潮が引いても姿を現さない沖の石のように、人知れず涙に濡れ続ける袖が思い浮かびます。
また誰にも知られぬまま、想いは胸の奥で静かに続いている。
嘆きを強めることなく、自然の比喩に託して心情を語ることで、二条院讃岐の忍ぶ恋の深さが際立ちます。
静けさの中に、尽きぬ涙の重みが滲む一首です。
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次回は、百人一首第93番 源実朝『世の中は』背景解説–常ならぬ世 をお届けします。
変わらないでほしいと願いながら、移ろう世を静かに見つめた実朝のまなざし。小さな舟に託された、人の命と日常の儚さを味わってみませんか。
百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』まとめ
二条院讃岐の「わが袖は」は、
人に知られぬ恋の涙を、
沖の石という自然の比喩に
託して描いた一首です。
また感情を声高に語らず、
忍ぶ姿勢を貫くことで、
かえって想いの深さが際立ちます。


涙は乾かずとも、恨みには変わらない。その静かな耐え方に、新古今時代の美意識が宿ります。秘め続ける心の強さを、そっと教えてくれる和歌です。


百人一首第92番 二条院讃岐『わが袖は』背景解説–涙の渇かずを百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
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