中村憲吉の夏の短歌で
夏の訪れを感じてみませんか?
夏の風や夕暮れの空、雨のにおい――
何気ない季節の風景に、
ふと心が動くことはありませんか?

アララギ派の歌人・中村憲吉は、そんな日常の中にある静かな感情を短歌にこめました。

今回は、彼の夏の代表作を5首選び、やさしくわかりやすくご紹介します。
中村憲吉とは?
中村憲吉 – Wikipedia(なかむら けんきち)は、
大正時代に活躍した短歌の歌人で、
アララギ派を代表する一人です。
また日常の風景や心の揺れを、
静かで深いまなざしで詠みました。
そして若い頃に伊藤左千夫や
島木赤彦の短歌に感動し、
のちに斎藤茂吉とも親しく交流します。

さらにアララギの流れを大切にしながら、自身の病気や孤独と向き合い、素直な言葉で心の奥を表現しました。

自然と感情がやわらかく重なるその歌は、今も多くの人の心に響いています。
中村憲吉の夏の短歌5選

「意味」はわたぼうしの意訳なので、解釈の仕方は参考程度に読んでね!
『夕べ野は かすかなる世に そこここと 青葉の息の たち嘆くらむ』


夕べ野は かすかなる世に そこここと 青葉の息の たち嘆くらむ
読み方:ゆうべのは かすかなるよに そこここと あおばのいきの たちなげくらん
句意:この短歌では、夕暮れの野に、青葉がそよぎ、まるでそこかしこで静かに嘆いているように見える情景を詠んでいます。

夕暮れの野に、薄明るい光が漂うなか、青葉がそよそよと風に揺れ、またその様子がまるで“嘆いている”ように見える――。

そして中村憲吉の特徴である繊細な感受性と自然へのまなざしが、この一首にもにじんでいます。
音もない風景の中に心の揺れを重ねた、静かで深い詩情が感じられる夏の歌です。
『暑き日の 日暮れとなれば うら悲し 倉かげに行きて 物を思ふも』


暑き日の 日暮れとなれば うら悲し 倉かげに行きて 物を思ふも
読み方:あつきひの ひぐれとなれば うらがなし くらかげにゆきて ものをおもうも
句意:この短歌では、暑い日が夕暮れに変わると、ふと悲しみがわき上がり、倉のかげでひとり物思いにふける様子を詠んでいます。

一日中続いた暑さが夕暮れに変わるころ、ふと心がうら悲しくなる。また作者は、ひとり倉のかげに身を寄せ、言葉にできない思いに沈んでいく。

そしてこの歌は、自然の変化とともに訪れる心の陰りを、情景に重ねて静かに表現しています。
日常の中にある感傷や孤独を、淡い光と影の中でとらえた一首です。
『若やげる 我が夏影も 年ごとに 衰へ行けば 夏のかなしも』


若やげる 我が夏影も 年ごとに 衰へ行けば 夏のかなしも
読み方:わかやげる わがなつかげも としごとに おとろえゆけば なつのかなしも
句意:この短歌では、かつて若々しかった夏の自分も、年々衰えを感じるようになり、夏が切なく思えてくることを詠んでいます。

若さに満ちていた自分の夏の影も、年を重ねるごとに衰えていく。またかつて輝いていた季節が、今はどこか遠く感じられ、その変化に“夏のかなしさ”を新たに覚える。

そして中村憲吉らしい時間の流れと自己の変化への繊細な眼差しが、夏という季節を通して静かに語られています。
季節と人生が重なり合う、余韻のある一首です。
『格子より 透ける道路の 夕あかり 雨しらじらと ほとばしり見ゆ』


格子より 透ける道路の 夕あかり 雨しらじらと ほとばしり見ゆ
読み方:こうしより すけるどうろの ゆうあかり あめしらじらと ほとばしりみゆ
句意:この短歌では、格子ごしに見える夕方の道に、白く光る雨が勢いよくほとばしる様子を静かに見つめると詠まれています。

窓の格子越しに、夕方のほの明るい道が透けて見える。またそこへ白く光る激しい雨が走るように降り出した。

そして室内から外の景色を切り取る視点が印象的で、静けさと急な変化を対比的に描く一首です。
中村憲吉ならではの繊細な観察と、日常に潜む詩情がにじむ作品です。
『夕立の 流れはじめし 庭のうへに 土のにほひの いたくこそすれ』


夕立の 流れはじめし 庭のうへに 土のにほひの いたくこそすれ
読み方:ゆうだちの ながれはじめし にわのうえに つちのにおいの いたくこそすれ
句意:この短歌では、夕立が降り始めた庭から、強く立ちのぼる土のにおいが印象的で、五感にしみる夏の情景を詠んでいます。

夕立が庭に降り始めたとき、濡れた土から立ちのぼる強いにおいに、はっとする作者の感覚が表れた一首です。

音や光ではなく“におい”という嗅覚を通じて自然の変化を描いた、五感の鋭さが光る作品。
土と雨が交わる瞬間の、夏特有の生命感と懐かしさが、また短い言葉に濃く凝縮されています。
中村憲吉の夏の短歌ちょっとむずかしいクイズ
クイズ:中村憲吉が島木赤彦と一緒に刊行した共著の歌集の名前はどれでしょう?
- まひる野集
- 馬鈴薯の花
- 若葉の記

解答はまとめの最後にあります!
▶中村憲吉と深い関わりのあったアララギ派の歌人たちも、
それぞれの視点で夏を詠んでいます。
自然と向き合い、そして心のひだを描いたその世界を、ぜひあわせてご覧ください。
中村憲吉の夏の短歌5選まとめ
中村憲吉の短歌は、
夏の空気や自然の気配に寄りそいながら、
心の奥にある静かな想いを
ていねいに映し出します。

アララギ派らしい素直なまなざしとともに、季節のうつろいを感じられる一首一首を、初心者の方にもわかりやすくご紹介しました。
クイズの答え:2.馬鈴薯の花
※1913年、島木赤彦と中村憲吉がともに刊行した歌集『馬鈴薯の花』は、素朴で真摯な短歌が並ぶ、アララギ派の精神が息づく作品集です。