百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第41番に収められた壬生忠見の和歌、「恋すてふ」。
この歌は、秘めた恋心が噂となり、
本人の意図せぬうちに広まってしまう切なさを詠んでいます。
今回ご紹介するのは、第41番『恋すてふ』。この歌では自分の気持ちは密かに抱いていたはずなのに、なぜか噂が先に立ってしまう―― そんな恋のもどかしさを、歌人・壬生忠見の背景や、平安時代の恋愛観とともに紹介します。

百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説では、初心者の方にもわかりやすく、和歌の背景や楽しみ方を丁寧に解説していきます。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
また、百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第40番 平兼盛『しのぶれど』の記事も併せてご覧ください。
壬生忠見の生涯と百人一首の背景
生涯について


壬生忠見 – Wikipedia(生没年不詳)は、
平安時代中期の歌人で、三十六歌仙の一人です。
父は同じく歌人の壬生忠岑。
天暦7年(953年)の内裏菊合や
天徳4年(960年)の内裏歌合など、多くの歌合に参加し、
勅撰和歌集に36首が収録されています。

また家集に『忠見集』があります。
壬生忠見は、百人一首第30番の歌人・壬生忠岑の子にあたります。父の忠岑も優れた和歌を残し、平安時代の宮廷歌壇で活躍しました。親子二代で百人一首に名を連ねるというのは、非常に珍しいことです。
壬生忠岑の「有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし」の歌も、恋の切なさを詠んだ名歌として知られています。ぜひ、忠見の歌とあわせて、父・忠岑の和歌の魅力も味わってみてください!
歴史的イベント
壬生忠見は、天徳4年(960年)の
『天徳内裏歌合』で平兼盛と対決し、
「恋すてふ」の和歌を詠みました。
この歌は名作とされ、本人も自信を持っていましたが、
判者は村上天皇がより多く口ずさんだ
兼盛の「しのぶれど」を勝者としました。

また忠見は敗北を深く嘆き、食事も喉を通らなくなり、そのまま病に倒れて亡くなったと伝えられています。

そしてこの逸話は、平安時代の和歌にかける情熱の強さを象徴する出来事として語り継がれています。
壬生忠見の「恋すてふ」は、『天徳内裏歌合』で平兼盛の「しのぶれど」と競い合った一首として有名です。どちらも秘めた恋心が思いがけず広まってしまう切なさを詠んだ名歌ですが、最終的に村上天皇の評価によって兼盛の歌が勝者となりました。
平兼盛の「しのぶれど」も、恋を隠そうとしても隠しきれず、ついに表情に出てしまうもどかしさを詠んだ一首です。ぜひ、二つの歌を比較しながら、和歌に込められた想いを味わってみてください!
他の歌について
壬生忠見は『続後撰和歌集』に、
「あさみどり 春は来ぬとや み吉野の 山の霞の 色に見ゆらむ」
という和歌を残しています。
またこの歌は、春の訪れを霞の色に重ね、
春の兆しがどのように見えるのかを詠んだ叙景歌です。

百人一首の「恋すてふ」が恋のもどかしさを描いたのに対し、この歌は繊細な自然描写を用いた優雅な表現が特徴です。

忠見は恋の歌だけでなく、季節の移ろいを詠む感性にも優れていた歌人だったことがうかがえます。
百人一首における位置付け
壬生忠見の和歌は、秘めた恋が噂となり、
本人の意図しないうちに広まってしまう切なさを
詠んでいます。
また『天徳内裏歌合』で平兼盛と競い合い、
惜しくも敗れた名歌としても有名です。
そして恋を忍びながらも、それが知られてしまうという
平安時代の恋愛のもどかしさを象徴し、
人の噂が先行する現代にも通じる普遍的な感情を
描いた和歌です。
壬生忠見がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説では、壬生忠見がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 秘めた恋が噂となるもどかしさを表現するため
- 人の噂が先行することの皮肉を込めるため
- 『天徳内裏歌合』で勝負に挑むため
秘めた恋が噂となるもどかしさを表現するため
平安時代の恋愛は、
人目を忍びながら行われるものでした。
しかし、壬生忠見の和歌では、
まだ誰にも告げていないはずの恋が、
すでに噂となって広まってしまっている
ことが詠まれています。
また恋心を密かに抱いていたのに、
周囲のほうが先に気づいてしまう――
そんなもどかしさが、この歌には込められています。
人の噂が先行することの皮肉を込めるため
「恋すてふ(恋だという)」のフレーズが示すように、
まだ恋を打ち明けてもいないのに、
人々の間ではすでに話題になっている
という状況が描かれています。
またこれは、当時の宮廷社会における噂の
広まりやすさを象徴しており、
恋のもどかしさに加えて、
噂の速さへの皮肉も感じられる表現になっています。
『天徳内裏歌合』で勝負に挑むため
この和歌は、天徳4年(960年)の『天徳内裏歌合』
で平兼盛と競い合った一首です。
忠見自身も自信作として臨みましたが、
最終的に村上天皇がより多く口ずさんだ
「しのぶれど」に敗れてしまいました。

壬生忠見の和歌は、秘めた恋が意図せず広まってしまう切なさと、噂の速さに対する皮肉を込めた一首です。

宮廷社会では、人々の関心が恋愛に向かいやすく、本人が言葉にしなくても周囲が先に察することがありました。この歌は、そのような状況を見事に表現しています。
『天徳内裏歌合』で平兼盛と競い合った名歌であり、和歌をめぐる宮廷文化の厳しさと重みを伝える作品でもあります。
読み方と句意


百人一首 壬生忠見
歌:恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
読み:こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
句意:まだ誰にも告げていないはずの恋なのに、いつの間にか噂が立ってしまった。人知れず想い始めたばかりなのに、なぜこんなにも早く知られてしまったのだろうと詠んでいます。
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』の楽しみ方
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 「恋すてふ」の意味を深く味わう
- 「まだき立ちにけり」の速さを実感する
- 『天徳内裏歌合』の名勝負を知る
「恋すてふ」の意味を深く味わう
「恋すてふ(恋だという)」の表現が、
この歌の鍵となっています。
本来、「恋をしている」と自ら言ったわけではないのに、
すでに世間では「恋をしている」と噂されている
という状況が表れています。
このフレーズには、恋が広まっていく速さへの驚きや、本人の戸惑いが込められており、恋愛における噂のもどかしさが見事に表現されています。
「まだき立ちにけり」の速さを実感する
「まだき」とは「早くも」「もうすでに」
という意味です。
まだ誰にも打ち明けていないはずなのに、
もう恋の噂が立ってしまったという驚きが
強調されています。
平安時代の宮廷では、ちょっとした出来事がすぐに話題になることがありました。この歌は、そんな人間関係の中で恋がどのように扱われていたかを知る手がかりにもなります。
『天徳内裏歌合』の名勝負を知る
この歌は、平兼盛の「しのぶれど」と
競い合った一首としても有名です。
兼盛の歌は「恋を忍んでも表情に出てしまう」切なさを描き、
忠見の歌は
「まだ誰にも告げていないのに噂が広まってしまう」
もどかしさを詠んでいます。
二つの歌を比較することで、恋心が秘められた宮廷の世界における、人々の恋愛観や噂の広まり方がより深く理解できます。
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり」では、
まだ誰にも告げていないはずの恋が、
なぜか噂となって広まり、すでに「恋をしている」と
人々に知られてしまっている。
宮廷社会では、恋の噂がすぐに広がることがありましたが、
忠見自身はその速さに驚いています。
また秘めていたはずの恋が、
本人の意図を超えて先に噂になってしまうという、
もどかしさが伝わる一首です。
五音句の情景と意味 「恋すてふ」


「恋すてふ」では、「恋しているらしい」という噂が、本人の知らぬ間に広まってしまったことを表しています。またまだ言葉にしていない想いが、先に世間に知られてしまう不思議さが描かれています。
七音句の情景と意味 「わが名はまだき」


「わが名はまだき」では、「まだき(もうすでに)」という言葉が、噂が広まる速さを強調しています。また想い始めたばかりなのに、なぜか恋の話が先に伝わってしまったという驚きと困惑がにじみます。
五音句の情景と意味 「立ちにけり」


「立ちにけり」では、「立つ」は「評判が立つ」という意味で、恋の噂がすでに広まってしまったことを示しています。自分では何もしていないのに、世間の話題になってしまった驚きが伝わります。
下の句(7-7)分析
下の句「人知れずこそ 思ひそめしか」では、
自分の恋心は、誰にも知られないように
密かに抱いていたはずでした。
それなのに、まだ心に秘めたばかりの想いが、
なぜか噂となって広まってしまった。
平安時代の宮廷では、
恋の噂がすぐに広がることがありましたが、
忠見はその速さに驚き、
なぜ自分の気持ちがこんなにも早く知られてしまったのか
という戸惑いを詠んでいます。
七音句の情景と意味「人知れずこそ」


「人知れずこそ」では、恋心は人に知られないように秘めていたのに、どうしてこんなにも早く噂が立ってしまったのだろうと、不思議に思う気持ちが表れています。
七音句の情景と意味「思ひそめしか」


「思ひそめしか」では、「恋をし始めたばかり」という意味。まだ自分自身も気持ちを整理できていないうちに、周囲のほうが先に気づいてしまったことを嘆いています。
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』和歌全体の情景


秘めた恋心が、まだ自分の中で整理もつかないうちに、なぜか周囲の噂になってしまった。平安時代の宮廷では、人々の関心が恋愛に向きやすく、噂がすぐに広まることも珍しくありませんでした。また思い始めたばかりの恋と、意図せず先行する評判の対比が、もどかしさを際立たせています。
百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』まとめ
壬生忠見の和歌は、秘めた恋が本人の知らぬ間に
噂となり広まってしまう切なさを詠んだ一首です。
また恋を打ち明けたわけでもないのに、
評判が先に立ってしまうもどかしさが表現されています。

この歌は、『天徳内裏歌合』で平兼盛と競い、惜しくも敗れた逸話とともに、平安時代の恋の風景を今に伝えています。

百人一首第41番 壬生忠見『恋すてふ』背景解説を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。