百人一首第48番 源重之『風をいたみ』背景解説で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第48番は、風にあおられ岩に砕ける波に、
恋に苦しむ心を重ねた一首。
また源重之が詠んだのは、思いが通じぬまま傷つき、
ただひとり砕けていくような切ない恋の情景です。
今回ご紹介するのは、百人一首第48番 源重之『風をいたみ』。自然と心が響き合う、静かで深い余韻を感じてみましょう。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
また、百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第47番 恵慶法師『八重むぐら』記事も併せてご覧ください。
源重之の生涯と百人一首の背景
生涯について


源重之– Wikipedia(生没年不詳)は、
平安中期の清和源氏の歌人で、
三河守・源兼信の子。
また三十六歌仙の一人で、『重之集』を遺しました。

康保4年、皇太子へ百首歌を献上するなど活躍し、そして晩年は陸奥で病没したとされます。
歴史的イベント
康保4年(967年)、源重之は
皇太子・憲平親王(後の冷泉天皇)へ
百首歌を献上しました。

またこれは後の「百首歌集」創作の先駆けとされ、個人によるまとまった和歌制作の礎を築いた重要な出来事と位置づけられています。
他の歌について
源重之は『新古今和歌集』に、
「春雨の そぼふる空の をやみせず おつる涙に 花ぞ散りける」
という歌を残しています。
しとしとと降り続く春雨と、
自らの涙に花の散り際を重ねたこの一首には、
絶え間ない悲しみを自然の景色に託す繊細な感情表現がにじんでいます。

そして百人一首に選ばれた「風をいたみ」にも通じる、自然と心情を響かせる源重之らしい歌風が印象的です。
百人一首における位置付け
源重之の「風をいたみ」は、
自然の激しさに心の揺れを重ねた、
感情と情景が響き合う和歌です。
また百人一首の中でも、自己の内面に向き合う
“繊細な孤独”を詠んだ代表的な一首といえます。
そして派手さはないものの、
静かな余韻と深い心情描写が多くの共感を呼び、
歌人としての存在感を確かなものにしています。
源重之がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』背景解説–波打つ想いでは、源重之がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 自然と心の共鳴
- 通じない想いのつらさ
- 恋愛と男性の心情表現
自然と心の共鳴
風にあおられ岩に砕ける波を、
自分の想いになぞらえることで、
恋の苦しみを自然の情景に託して表現しています。
またこれは当時の和歌における
典型的な“自然=心情”の発想であり、
そして源重之の感受性の深さがうかがえます。
通じない想いのつらさ
「おのれのみ くだけてものを思ふ」という句からは、
恋の相手には届かぬ、報われぬ想いに苦しむ孤独が
にじみます。
そして誰にも理解されない、
ただひとり心砕かれていく切なさが、
印象的に描かれています。
恋愛と男性の心情表現
平安時代の男性歌人は、
恋に傷つく自分の姿を誇張せず、
静かに悲しみを語ることで“深み”を表現しました。
そしてこの歌も、激情ではなく静かに砕ける波のように、
内面の痛みを抑えつつ詠んでいる点が特徴です。

この和歌では、自然と心を重ねることで感情をストレートに語らずに伝える、源重之らしい歌風が際立っています。

そして「おのれのみ」という言葉には、誰にも共有されない痛みと、孤独な恋の真実が凝縮されています。
華やかさはなくとも、静かな情熱と傷つく心を、波の描写を通して美しく浮かび上がらせた一首です。
読み方と句意


百人一首第 源重之
歌:風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけてものを 思ふころかな
読み:かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな
句意:風が強く吹いて波が岩に砕けるように、私の恋心も砕けて苦しんでいるという想い。
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』の楽しみ方
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』背景解説–波打つ想いでは、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 自然と心の重なりを味わう
- 「おのれのみ」にこめた孤独
- 音の流れと響きを楽しむ
自然と心の重なりを味わう
風や波といった自然の描写に、
心の動きを託した一首です。
自然現象を心情の比喩に用いる技法に注目して読むと、感情が風景に静かに溶け込んでいく余韻が感じられます。
「おのれのみ」にこめた孤独
「おのれのみ」という表現には、
誰にも伝わらない、
ひとりきりの想いがこめられています。
恋において「自分だけが傷ついている」と感じた瞬間を、そっと共感しながら読むことで、切なさがより深く胸に迫ります。
音の流れと響きを楽しむ
五・七・五・七・七の調べの中に、
波が砕けるようなリズムが感じられます。
「くだけて」「ものを」「思ふころかな」という終わり方も、波が静かに消えていくような響きを持ち、耳でも楽しめる一首です。
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ」では、
風によってあおられた波が
岩に打ち砕ける激しい情景が描かれています。
またその自然の力と姿を通して、
ひとり心砕ける恋の苦しみがじわじわと伝わってきます。
そしてとくに「おのれのみ」によって、
自分だけが傷ついているという孤独がにじみます。
五音句の情景と意味 「風をいたみ」


「風をいたみ」は、強く吹きつける風に痛みを感じるような描写。また恋の波立つ心を揺るがす、外からの激しい影響を暗示しています。
七音句の情景と意味 「岩うつ波の」


「岩うつ波の」では、風にあおられて岩に打ちつけられる波の様子。また感情がぶつかり砕ける様子を、自然の動きで巧みに表現しています。
五音句の情景と意味 「おのれのみ」


「おのれのみ」では、「自分だけが」と孤独を強調する言葉。また恋の痛みを抱えるのは自分ひとりだという、切ない心の叫びがにじみます。
下の句(7-7)分析
下の句「くだけてものを 思ふころかな」では、
砕ける波のように心が壊れていく様子が描かれています。
またその「砕ける」のは想いであり、
恋の苦しみに押しつぶされるような心情がにじみます。
そして「ころかな」で時間の継続性が示され、
今なお続く切ない感情を読者に余韻として残します。
七音句の情景と意味「くだけてものを」


「くだけてものを」では、波が砕けるように、自分の心も打ち砕かれてしまう。また思いが通じず、壊れていくような感情の爆発を静かに語っています。
七音句の情景と意味「思ふころかな」


「思ふころかな」では、そんな砕ける思いを、今まさに感じている“この頃”。また心を乱す日々が続いていることを、静かな嘆きのように結んでいます。
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』和歌全体の情景


和歌全体では、強く吹く風にあおられて、岩に打ちつけられ砕ける波。またその情景に、自らの恋心の激しさと切なさを重ねています。そして誰にも届かず、ただひとり砕けていく想い――自然の中にある動きと音に、静かな孤独と胸の痛みが美しく映し出された一首です。
百人一首第48番 源重之『風をいたみ』まとめ
源重之の「風をいたみ」は、
自然の激しさに恋の苦しみを重ねた一首です。
砕け散る波のように、
届かぬ想いに心を痛める姿が静かに描かれています。

控えめな表現のなかに深い感情が息づく、余韻ある和歌として味わいたい作品です。

百人一首第48番 源重之『風をいたみ』背景解説–波打つ想いを百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。