百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
第61番は、伊勢大輔「いにしへの」。
奈良の都から受け継がれてきた八重桜の美が、
今もなお宮中に気高く咲く──。
この和歌では、過去への敬意と、
今の都への誇りが重ねられています。
また花をめぐる想いが、
時を越えて香り立つ一首です。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
また、百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第60番 小式部内侍『大江山』記事も併せてご覧ください。
伊勢大輔の生涯と百人一首の背景
生涯について


伊勢大輔 Wikipedia(989年頃〜1060年頃)は、
平安中期の女流歌人で、
大中臣輔親の娘として生まれ、
1008年ごろ一条天皇の中宮彰子に仕え、
紫式部・和泉式部らと交わりました。

即興詠「いにしへの」で名を上げ、後の歌壇でも重きをなした才媛です。
歴史的イベント
伊勢大輔は、
一条天皇の中宮・彰子に仕えた才女で、
宮廷女房文学の黄金期に活躍しました。
また紫式部・和泉式部らと同時代に在仕し、
当時の女流歌人の中でも
抜きん出た才能を誇りました。

なかでも藤原道長の前で詠んだ即興歌「いにしへの―」は、古都奈良の八重桜を平安宮廷に重ねた見事な一首として称賛され、 百人一首に採られました。

彼女の歌は、宮中文化の雅さと伝統を繋ぐ橋渡し役として、今も高く評価されています。
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他の歌について
伊勢大輔は『後拾遺和歌集』に、
「聞きつとも聞かずともなく時鳥心まどはすさ夜のひと声」
という歌を残しています。
この一首では、闇夜に響く時鳥の声が、
聞く者の心を揺さぶる情景を描いています。
また聞こえたような、
聞こえなかったような曖昧な感覚が、
不安や恋の動揺と重なります。

そして伊勢大輔の歌には、感覚の曖昧さを巧みに用いて心の揺れを表現する繊細さが見られます。
百人一首における位置付け
伊勢大輔のこの歌は、
古都・奈良と現代の宮中を
桜の香に託してつなぐ、優美な和歌
として百人一首に選ばれました。
伝統と現在を結ぶ視点や、
宮廷文化の風雅さが際立ち、
女性歌人の代表的な一首として
高く評価されています。
伊勢大輔がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』背景解説–宮の記憶では、伊勢大輔がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 奈良の都からの贈り物として
- 宮廷の気品と美の象徴として
- 女性歌人としての誇りを込めて
奈良の都からの贈り物として
古の都・奈良から
献上された八重桜を前に、
過去と現在が交差する瞬間に
心動かされて詠まれた一首です。
また王朝文化への敬意と、
時間のつながりを感じさせます。
宮廷の気品と美の象徴として
咲き誇る八重桜は、
華やかな宮廷の中での美の象徴。
またその気高さを「にほひ(香り・美しさ)」
という言葉に託しています。
女性歌人としての誇りを込めて
宮廷に仕える女性として、
古き良き都の風情を
今の九重に映し出すことで、
自らの教養と感性を歌に込めました。
自負と洗練された詩情が感じられます。

この和歌では、奈良から献上された八重桜をきっかけに、古都と現代の宮中を美しく結ぶ発想から生まれました。

また八重桜の香りや色彩は、過去から現在への連続性や文化の継承を象徴しています。
伊勢大輔の女性としての誇りや感性も滲む、優雅で奥行きのある一首です。
読み方と句意


百人一首第 伊勢大輔
歌:いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
読み:いにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな
句意:奈良の都の八重桜が、今日、宮中に咲き誇り、過去の美しさが今ここに息づいていることを感じて詠んだ歌です。
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』の楽しみ方
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』背景解説–宮の記憶では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 過去と現在を結ぶ時間の美
- 花による文化の象徴性
- 視覚と香りの調和表現
過去と現在を結ぶ時間の美
「いにしへの奈良の都」と
「けふ九重」を対比することで、
過去の都の栄華と今の宮中の美が
つながる時間の流れを感じ取ることができます。
歴史の中で受け継がれてきた美意識を味わいましょう。
花による文化の象徴性
この和歌では、
花の重なり合う花びらの美しさが、
過去と現在、場所と人の記憶を
つなぐ象徴として詠まれています。
ただの景色ではなく、文化や感情までもを映し出す鏡として描かれている点に注目です。
視覚と香りの調和表現
「にほひぬるかな」は視覚的な美しさだけでなく、
香り立つような気配や気品までも表す言葉です。
五感を使って読むことで、この歌の情景や心の動きがより鮮やかに立ち上がります。
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「いにしへの 奈良の都の 八重桜」では、
かつて栄えた奈良の都の美しさを象徴する八重桜。
また重なり合う花びらのように、
古の記憶や宮中の雅な日々が呼び起こされる。
そして咲き誇る花に、
過ぎ去った時代の華やぎと、
今なお色褪せない誇りと憧れが重ねられています。
五音句の情景と意味「いにしへの」


「いにしへの」では、遥かな過去を指し示す言葉。そして時の流れを越えてなお、心に残る古都の気配を想起させます。
七音句の情景と意味「奈良の都の」


「奈良の都の」では、天平文化が栄えた雅やかな奈良の都。また静けさの中に、上品な気風と貴族の暮らしの余韻が漂います。
五音句の情景と意味「八重桜」


「八重桜」では、幾重にも花を咲かせる八重桜は、豊かさや気品を象徴。また奈良の美を代表する花として詠まれます。
下の句(7-7)分析
下の句「けふ九重に にほひぬるかな」では、
かつて奈良に咲いた八重桜が、
今日は都(九重)で鮮やかに咲いている
という意味です。
また古の花が、今を彩り、
過去と現在を優しく結びつけています。
七音句の情景と意味「けふ九重に」


「けふ九重に」では、今日、宮中の奥深くに花が咲く情景。また古都・奈良から持ち込まれた桜が、今この瞬間、新しい都の中心で咲き誇っている姿を映します。
七音句の情景と意味「にほひぬるかな」


「にほひぬるかな」では、美しく咲き匂うさまを感嘆とともに詠嘆しています。また色彩と香りが重なり、目に見える華やかさと心の感動が響きます。
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』和歌全体の情景


和歌全体では、古都・奈良の八重桜が、時を越えて京都の宮中に咲くという情景が描かれています。かつて愛された花が、今なお美しく香り、過去の記憶と現在の栄華をつなぐように、しっとりと咲き誇る姿が心に残ります。
百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』まとめ
伊勢大輔のこの和歌は、
奈良の都に咲いた八重桜の美しさが、
時を越えて今日の宮中に
再び咲き誇っていることを詠んだものです。
また花の香りと色彩に、
古都の記憶と今の栄華が重なり合い、
過去と現在をつなぐ情緒が感じられます。

この一首には、目の前の景色と心の中の情景が響き合う、平安時代ならではの繊細な感性が息づいています。

百人一首第61番 伊勢大輔『いにしへの』背景解説–宮の記憶を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
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