百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
恋に身を任せることと、
自分の名誉を守ること。
またそのはざまで揺れる、
ひとりの女性の葛藤が、
春の夜の夢のように美しく詠まれています。

今回は、宮廷に仕えた女流歌人・周防内侍による一首です。

儚さと誇りが交錯する恋の余韻を、やさしくひもといてみましょう。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。また和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第66番 行尊『もろともに』記事も併せてご覧ください。
周防内侍の生涯と百人一首の背景
生涯について


平安時代後期の女房で、
白河天皇に仕えた才色兼備の歌人です。
また大納言・藤原実政の娘とされ、
宮廷での機知と教養により
多くの人々に愛されました。

また和歌にも優れ、『金葉和歌集』『詞花和歌集』などに入集。恋愛を主題とする繊細で誇り高い歌風が特徴です。

百人一首では、名誉と恋の板挟みを描いた一首が選ばれ、その凛とした美意識が今も読み継がれています。
歴史的イベント
周防内侍は白河天皇の寵愛を受けながらも、
宮廷での恋愛と名誉の間で揺れる女性像として
知られます。
特に藤原忠家との恋にまつわる逸話は有名で、
宮中での手枕を詠んだ歌が評判となり、
彼女の名が広まりました。

しかし、それゆえに「名を惜しむ」気持ちも強く、和歌には女性の誇りと内面の葛藤がにじみます。

この一首は、恋の余韻と名誉意識が交錯した、彼女の立場をよく表す歌として伝えられています。
他の歌について
周防内侍は『新古今和歌集』に、
「かくしつつ夕べの雲となりもせばあはれかけても誰かしのばむ」
という歌を残しています。
また自らの想いを隠したまま
夕暮れの雲のように消えてしまえたらという、
切ない願いが詠まれています。

そして恋の感情をあらわにせず、秘めたままに終わる女性の矜持と哀しさがにじみ、「あはれ」をかける相手すらいなくなる孤独が浮かびます。

このように周防内侍の歌は、恋の余情を静かに描きながら、名誉と感情の境界線を大切にする美意識に貫かれています。
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』の百人一首における位置付け
周防内侍の和歌は、
恋の甘さに身を任せず、
名誉を重んじた女性の矜持がにじむ一首です。
百人一首では、
恋と誇りのあいだで揺れる心情を、
静かに美しく描いた歌として
高く評価されています。
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周防内侍がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』背景解説–名を惜しむ夜では、周防内侍がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 名誉を守る強さ
- 夢のようなはかなさ
- 女性としての誇り
名誉を守る強さ
一夜の恋が広まることで、
自分の評判が傷つくことを
恐れた心情が表れています。
また恋よりも名を重んじる、
女性としての強い美学が読み取れます。
夢のようなはかなさ
「春の夜」「夢ばかり」といった語に、
現実感の希薄な恋の儚さが
込められています。
また手枕という言葉が、
淡くも切ない余韻を残します。
女性としての誇り
恋に流されるのではなく、
「かひなく立たむ名こそをしけれ」と
詠みきることで、
自分の価値を自ら守ろうとする
誇り高い姿勢がにじみます。

この和歌には、恋への想いと、それ以上に女性としての尊厳を守ろうとする意志が込められています。

また「名こそ惜しけれ」と言い切る姿には、周防内侍自身の覚悟と気高さが感じられます。
甘く切ない恋の情景のなかに、揺れながらも芯をもった女性の強さが光る一首です。
読み方と句意


百人一首第 周防内侍
歌:春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそをしけれ
読み:はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
句意:この和歌では、春の夜の儚い逢瀬によって名を傷つけるくらいなら、手枕の夢も無駄になってしまうと詠まれています。
「名を惜しむ夜」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
誰かを好きになる気持ちと、自分らしさや信頼を守りたい気持ち。そしてその両方を抱えながら、私たちは今日も、心のどこかで線を引いているのかもしれません。
- 好きでも、越えない一線
- 一夜の感情に人生はゆだねない
- 自分の価値は自分で決めたい
好きでも、越えない一線
恋の高まりの中でも、すべてを委ねない強さ。
「これ以上は、自分が自分でなくなる」――
そんな境界を、誰もがどこかに持っています。
恋に夢中になることは素敵なこと。でもその中で、自分の価値や信念を失ってしまわないかと不安になるときもあります。また「名を惜しむ夜」は、まさにその境目での葛藤。好きな気持ちを大切にしながら、自分を大切にする選択でもあるのです。
一夜の感情に人生はゆだねない
その場の空気や誘いに
流されそうになることもある。
でも、自分の未来を思うとき、
ふと足が止まることもある。
「かひなく立たむ名こそをしけれ」という結句には、一時の感情だけでは動かない、長い目で見た選択の重みが感じられます。後悔しないために、いまは踏みとどまる。それは消極的な行動ではなく、未来の自分への誠実な態度かもしれません。
自分の価値は自分で決めたい
誰かの好意や評判ではなく、
“自分で選んだ”という実感こそが、
自信や誇りの土台になるのだと思う。
恋をすると、どうしても相手の目を気にしてしまいます。でも最終的に、自分が納得できる道を選べたかどうかが、心に残るものになります。この和歌は、他人からの評価よりも、自分の信念に誠実であろうとする姿を静かに描いています。
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』の楽しみ方
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』背景解説–名を惜しむ夜では、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 語順の妙を味わう
- 恋と誇りのはざまを読む
- “女性の声”として読む
語順の妙を味わう
この和歌は、恋そのものを「夢」にたとえながら、
その夢が儚く、むなしいものであることを
徐々に明かしていきます。
語の配置と間のとり方によって、
恋心の高まりと、それを引き戻す理性が
丁寧に描かれているのです。
「春の夜の夢ばかりなる手枕に…」という語順により、恋が夢と同じくらい儚いものであることが、静かに心に響く構成になっています。
恋と誇りのはざまを読む
恋の余韻にひたりながらも、
その一夜が名を汚すならば意味がない――
と詠み切る結句には、
感情を制する理性の強さが光ります。
この和歌では、恋する気持ちと自らの矜持が、
ひとつの歌に同居している点が
味わい深いのです。
「手枕」という甘やかな情景と、「名こそ惜しけれ」という言い切りの強さの対比が魅力です。
“女性の声”として読む
この一首は、単なる恋の歌ではなく、
平安時代の女性の生き方や社会的立場を
反映した表現とも言えます。
また恋をしても、
自らの「名」を守ることの大切さ――
それは、周防内侍が貫いた
ひとつの生きざまでもあります。
背景を知れば、歌の奥行きがぐっと広がります。
当時の宮廷社会において、名誉を守ることは女性にとって重要な価値観でした。その背景を知ると、歌の重みがいっそう増します。
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「春の夜の 夢ばかりなる 手枕に」では、
恋のひとときを春の夜の夢になぞらえた表現です。
またぬくもりが残る一夜も、
目覚めれば儚く消えるもの。
そして恋と夢の重なりが、
静かに切なさを漂わせています。
五音句の情景と意味「春の夜の」


「春の夜の」では、ほんのり暖かく、心を緩ませる春の宵。恋が芽生えるにはじゅうぶんな静けさとやわらかさが広がります。
七音句の情景と意味「夢ばかりなる」


「夢ばかりなる」では、甘く心地よいけれど、すぐに消えてしまう。現実感のない一夜が夢のように淡く描かれています。
五音句の情景と意味「手枕に」


「手枕に」では、肩を預けたぬくもりが残る場面。ふたりの距離の近さと、余韻の切なさが漂います。
下の句(7-7)分析
下の句「かひなく立たむ 名こそをしけれ」では、
恋の余韻が人の噂となって
広まってしまうことへの不安と、
それによって傷つく
自らの名誉を惜しむ気持ちが表れています。
また一時の想いより、自分の価値を守るという
凛とした決意がにじみます。
七音句の情景と意味「かひなく立たむ」


「かひなく立たむ」では、恋の余韻が無意味に噂となるのなら、あの一夜はむなしいものになってしまうという悔しさがにじみます。
七音句の情景と意味「名こそをしけれ」


「名こそをしけれ」では、自分の名が軽んじられることへの強い拒絶。女性としての誇りと名誉を守る気高さが込められています。
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』和歌全体の情景


和歌全体では、春の夜、恋人の肩を枕にした淡いひととき。しかしそのぬくもりが、あとで噂となり名を傷つけるなら――。恋の余韻とともに、名誉を守ろうとする凛とした決意が立ちのぼります。儚さのなかに強さを秘めた、美しい別れの情景です。
百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』まとめ
この和歌は、
恋の甘さに心が動きながらも、
自分の名誉を守るために
踏みとどまろうとする女性の決意が
込められています。
また「春の夜」「夢」「手枕」という
やわらかな言葉のなかに、
揺れる心と静かな強さが同居しています。

感情のままに動くことが美徳とされがちな今だからこそ、この和歌に込められた「誇りある引き際」の美学が、私たちの心に深く響きます。

百人一首第67番 周防内侍『春の夜の』背景解説–名を惜しむ夜を百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
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