百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』で、
和歌の世界を旅してみませんか?
黒髪の乱れに、揺れる恋心を重ねて――。

待賢門院堀河の一首は、相手の心の行方を思い悩む女性の繊細な心情を詠んでいます。

また髪が乱れる朝の情景は、そのまま心の乱れの象徴。そして平安の女性が抱いた恋の切なさと、儚くも美しい感情の揺らぎを感じてみましょう。
和歌の魅力をより深く理解するために、和歌と短歌の違いを学べる記事もぜひご覧ください。また和歌の形式や表現の違いを学ぶことで、百人一首の味わいがより一層広がります。
百人一首の流れを追って楽しむことで、和歌の歴史や背景がより深く感じられます。そして前の歌をまだご覧になっていない方は、ぜひ百人一首第79番 藤原顕輔『秋風に』記事も併せてご覧ください。
待賢門院堀河の生涯と百人一首の背景
生涯について


村上源氏の出身で、右大臣源顕房の孫、
歌人源顕仲の娘です。
斎院令子内親王に仕えて「六条」と称し、
のちに待賢門院璋子に仕えて「堀河」と
呼ばれました。

結婚後まもなく夫と死別し、康治元年(1142)に待賢門院の落飾に従って出家し、仁和寺に住みました。

西行とも親交があり、百人一首には恋の不安を黒髪に託した「長からむ」が採られています。
歴史的イベント
待賢門院堀河は、院政期の歌壇で
活躍した代表的な女流歌人です。
大治元年(1126)の摂政忠通歌合や、
大治三年(1128)の西宮歌合に出詠し、
久安六年(1150)には崇徳院主催の
『久安百首』にも参加しました。

また家集『待賢門院堀河集』を残し、『金葉集』をはじめ勅撰集に六十七首が入集しています。

その繊細な恋歌は後世にも影響を与えました。
他の歌について
待賢門院堀河は『千載和歌集』に、
「秋の来るけしきの森の下風に立ちそふ物はあはれなりけり」
という歌を残しています。
この歌は、秋の訪れを知らせる森の
下風にそっと寄り添う草木を見て、
自然の変化に心を重ねる繊細な感性を詠んだ一首です。
また待賢門院堀河は、華やかな宮廷生活の中でも、
こうした静かな季節の気配や、
心の揺らぎを巧みに表現しました。

百人一首の「長からむ」が恋の不安を描いた歌であるのに対し、この歌では自然の移ろいに寄り添うやさしいまなざしが感じられます。

彼女の歌には、恋も四季も同じように「もののあはれ」が息づいています。
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』の百人一首における位置付け
この和歌は、
黒髪の乱れに恋の不安と心の揺れを重ねた、
平安女性らしい繊細な恋の歌です。
百人一首では、
恋の終わりや心変わりを予感する場面を
象徴する一首として位置づけられ、
静かな朝に漂う切なさと余韻が
際立っています。
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待賢門院堀河がなぜこの和歌を詠んだのか?
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』背景解説–恋のほつれでは、待賢門院堀河がなぜこの和歌を詠んだのか?についてポイントを3つに分けてみました。
- 恋の不安を映すため
- 心と姿を重ねるため
- 女性の感受性を伝えるため
恋の不安を映すため
相手の心がいつまで続くのか分からない――
恋の儚さや揺れる想いを、
朝の黒髪の乱れに託して表現しました。
心と姿を重ねるため
乱れた髪という外見を通して、
内面の乱れや迷いを象徴的に描いた一首です。
平安女性の感情表現の典型が見られます。
女性の感受性を伝えるため
小さな変化や不安を、
言葉少なく情緒で語るという、
女流歌人ならではの繊細な美を
表しています。

この和歌では、恋の不安や心の乱れを、黒髪の乱れという日常の情景に重ねて詠んだものです。

また待賢門院堀河は、直接的な言葉ではなく、余韻と象徴で感情を伝えることで、女性の静かな情熱を描き出しました。
黒髪の「乱れ」は、恋の不安・心の動揺・愛の切なさをすべて包み込む、平安恋歌の美意識を体現しています。
読み方と句意


百人一首 第 待賢門院堀河
歌:長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ
読み:ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ
句意:この和歌では、あなたの愛がいつまで続くのか分からず、黒髪のように心も乱れて、今朝は物思いに沈んでいると詠まれています。
「恋のほつれ」――いまの私たちなら、どう感じるのだろう?
恋の関係が少しずつすれ違い始めたとき。言葉にできない違和感や不安、そしてまだ残る想い――。待賢門院堀河の「恋のほつれ」は、人を想うことの繊細さと切なさを、現代の私たちにも静かに語りかけてくれます。
- すれ違う心の痛み
- 見えない想いの葛藤
- 愛を信じたい気持ち
すれ違う心の痛み
恋の始まりは華やかでも、
心がすれ違う瞬間には静かな痛みが
生まれます。
また堀河の歌は、
その揺らぎを黒髪の乱れに重ね、
愛するがゆえの不安と優しさを描いています。
そして現代でも共感できる、
“失うことを恐れる心”がそこにあります。
相手の気持ちが離れていくかもしれない――そんな不安を誰もが感じたことがあります。
見えない想いの葛藤
「長からむ心も知らず」という冒頭には、
相手の真意が見えない苦しさがにじみます。
また恋は言葉だけでは結べず、
沈黙の中に感情が揺れるもの。
そして現代でも、相手の想いを
探りながら自分の心を整える――
その繊細な葛藤が重なります。
相手に本心を伝えられないもどかしさも、この歌に込められています。
愛を信じたい気持ち
黒髪の乱れを直そうとするように、
心を整えながらも、
まだ相手を信じたいという想いが残ります。
また恋のほつれは終わりではなく、
絆を確かめるための試練でもあります。
そして堀河の一首は、
揺れながらも信じる心の強さを
静かに伝えています。
不安の中でも、愛する心を手放せない切なさが表れています。
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』の楽しみ方
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』背景解説–恋のほつれでは、この和歌の楽しみ方のポイントをこの3つに分けてみました。
- 黒髪の象徴を味わう
- 朝の情景を想像する
- 恋の心の機微を読む
黒髪の象徴を味わう
「黒髪」は、女性の美と純粋さの象徴でした。
またその髪が乱れることは、
恋の乱れ=心の動揺を意味します。
そして堀河の歌は、身だしなみの乱れ
というささやかな現実描写を通して、
内面の葛藤を繊細に伝える美を
感じさせてくれます。
黒髪の乱れは、平安時代における恋の比喩。外見を通して心の揺れを表す優美な表現です。
朝の情景を想像する
「今朝は」という一言が、
和歌全体に現実の時間を与えています。
また夜の夢と現実が交わる朝、
その一瞬に恋の不安がよみがえる。
鏡に映る自分の髪と心を重ねるような余韻が、
この和歌をより情緒的に味わう鍵です。
音のない世界に広がる、月光の静謐な輝きを心で聴くように味わいましょう。
恋の心の機微を読む
堀河の恋歌は、
激しい感情を直接表現せず、
沈黙の中に感情を滲ませることに美があります。
また言葉を抑えることで、
かえって深い情が伝わる。
そして見えない心を読むことが、
平安の恋歌の醍醐味であり、
この一首もその繊細な美を体現しています。
相手を責めず、ただ自分の心の揺れを静かに見つめる――そこに平安の恋の美学があります。
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』背景解説
上の句(5-7-5)
上の句「長からむ 心も知らず 黒髪の」では、
愛する人の心がいつまで変わらずに
いられるのか分からないという不安を、
黒髪の長さと重ねて詠んでいます。
そして恋の永遠を願いつつも、
乱れる髪のように揺れる心が静かに滲みます。
五音句の情景と意味「長からむ」


「長からむ」では、恋がこの先も長く続くのか――。また未来への不安と願いが入り混じる、静かな問いかけの響きが感じられます。
七音句の情景と意味「心も知らず」


「心も知らず」では、相手の心の内が分からず、恋する者の切なさと孤独が胸に広がる瞬間を映しています。
五音句の情景と意味「黒髪の」


「黒髪の」では、黒髪は女性の美の象徴。またその艶やかな髪に、揺れる恋心と乱れゆく情感が重ねられています。
下の句(7-7)分析
下の句「乱れて今朝は 物をこそ思へ」では、
夜明けの鏡の前で髪を整えながら、
心の乱れを感じる情景を描きます。
また黒髪の乱れ=心の乱れとして、
恋の不安と寂しさが静かににじむ朝。
そして抑えた言葉の中に、
深い情感と女性の繊細な想いが流れています。
七音句の情景と意味「乱れて今朝は」


「乱れて今朝は」では、朝、乱れた髪を見つめながら、恋の不安が胸に広がる静かな瞬間を表しています。
七音句の情景と意味「物をこそ思へ」


「物をこそ思へ」では、心が乱れ、何も手につかない――。また恋する想いに沈む女性の切ない内面を映し出しています。
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』和歌全体の情景


夜が明け、鏡の前で髪を整える女性。乱れた黒髪に、恋の不安と心の揺れを映します。愛する人の心がいつまで続くのか分からず、朝の静けさの中に切ない思いがこぼれる――。外見の乱れと内面の乱れが重なり、恋の儚さがそっと香る情景です。
百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』まとめ
待賢門院堀河の「長からむ」は、
黒髪の乱れを通して恋の不安を描いた、
平安女性の繊細な感情美が光る一首です。
髪の乱れは、心の乱れ。
愛の永遠を信じたい気持ちと、
揺れる心のはざまで揺らぐ姿が
静かに浮かびます。

直接的な言葉を避け、象徴と余韻で感情を伝える平安恋歌の典型といえる作品です。静かな朝の情景に、今も変わらぬ恋の痛みと優しさが息づいています。

百人一首第80番 待賢門院堀河『長からむ』背景解説–恋のほつれを百人一首の第一歩として、この和歌を味わうことで、和歌の魅力を発見してみてください。
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